THE ELEPHANT KASHIMASHI
エレファントカシマシ / CD / 1988
エレファントカシマシのデビュー三十周年にあやかって、これまで文章を書いていなかったデビュー・アルバムから『風』までの作品について、これからしばらくかけてだらだらと語ってゆこうと思います。
題して『エレファントカシマシと俺』。おひまならおつきあいくださいませ。
ということで、まずはファーストから。
僕がこのエレカシのデビュー・アルバムを聴いたのは、たぶん大学三年のときだった。ロッキング・オンが破格の新人バンドとして大プッシュしていたところへ、当時の僕のガールフレンド──というのは、つまりいまの僕の奥さんなわけだけれど──が試聴用のサンプル・テープをもらったから、興味があるならといって持ってきてくれたのだった。
どうして彼女のもとにデビューしたばかりのエレカシのサンプル・テープが回ってきたかというと、それは彼女のお父さん──というのはつまり、いまや僕の義理の父なわけだけれど(しつこい)──が某レコード会社のプロデューサーだったから。そしてそのお父さんの知人のAさんという人がエレカシの初代マネージャーをつとめていたからだった。「今度こんなバンドを手がけるんです」とかいって渡されたものらしい。それが巡りめぐって、僕の手もとに届けられたわけだ。
業界人ならばいざ知らず、一介の大学生にして、そんな風に裏ルートを通じてエレカシと出会ったのは──そしてそれから四半世紀以上をともに生きてきたのは──、世のなか広しといえども、僕ぐらいなもんじゃないだろうか。その後の長きにわたる僕のエレカシ・ラッキー運は、この時点ですでに始まっていたんだと思う。
いや、さらにさかのぼっていえば、僕の高校のときのクラスメイトには、なんと宮本の幼なじみだったという女の子がいたりもするのです。
つまり僕は宮本の幼なじみのクラスメイトなのである(──ということをファンになってずいぶんと経ってから知った。彼女が宮本のことを「ひろちゃん」と呼ぶのを聞いて、どれだけ驚いたことか……)。そのつてで僕の親しい友人たちは、アマチュア時代のまだ七人編成だったころのエレカシのライブを観たことがあるとも聞く。それってちょっとすごくないですか?
まぁ、なにはともあれ、そんなわけで僕のエレカシとの出会いは、一本のカセットテープだった。当時はまだ主流だったアナログ盤でもなく、急速に勢力を伸ばしつつあったCDでもない。ありふれたソニーのカセットテープ。それも市販のなんの変哲もないやつ。自分でもエアチェックなどによく使った、緑色のレーベルのやつ。いまでもわが家の押入れをあされば、現物があると思う(もの持ちがいい)。
そのころはまだインターネットなんかなかったし、僕はレンタル・レコードが大嫌いだったから(どう考えたって著作権法違反だろう)、新しい音楽を聴きたいと思えば、ともだちに借りるか、金を出してレコードを買うしかなかった。そして当然のように、貧乏な学生は、なけなしの金を出して、見ず知らずの新人バンドのアルバムを買ったりはしない。そのテープがなければ、僕がエレカシと出会うのは、もっとずっとあとのことになっていたはずだ。
そして、もしそれが『ココロに花を』以降だったとしたら、おそらく僕がこれほどまでにエレカシにはまることはなかっただろうと思う。そういう意味では、そのテープがその後の僕の人生にあたえた影響はことのほか大きかった。
とはいえ、そのときのそのテープには、その後三十年近くの長きにわたってつづくことになるエレカシとのつきあいを予感させるような特別ななにかがあったかといえば、残念ながら答えはノーだ。そんなスペシャル感はこれっぽっちもなかった。
僕の目に映った(というか耳に届いた)当時のエレカシは、反語満載のひねくれた歌詞をRC的なストレートなロックンロールに乗せて歌う、奇妙な歌い回しのボーカリストのいるロック・バンドというに過ぎなかった(──とか書いてみるとずいぶん個性的な気もするけど)。
『習わぬ経を読む男』や『花男』は素直にいいと思ったし(いまでも大好きだ)、『BLUE DAYS』のボーカルのすさまじさには恐れ入った。『やさしさ』の歌詞にスライダーズの『one day』と同じ心象風景を見いだして大いに共感しもした。
とはいえ、自身の趣味として、ストーンズ、スライダーズ的なものからオルタナティヴなもの──ストーン・ローゼズのデビューがその翌年だった──へと舵を切りつつあった当時の僕にとって、彼らのギター・サウンドはあまりにオーソドックスすぎた。サウンド面でこれといって新しいところがないがゆえにもの足りなかった。
おまけに、そのころの僕はそれまでつづけていた中途半端なバンド活動に見切りをつけて、音楽から足を洗った直後だった。そんなやつに自分と同い年のロック・バンドを正しく評価しろったって無理な相談だ。ひがみ根性が手伝って、どうしたって目が曇ってしまう。そうは思いたくないけれど、実際にそういう気持ちがなかったとはいいきれない。
はたして、僕がふたたびエレファントカシマシと出会い、大いなる衝撃を受けるまでは、それからおよそ二年の歳月を費やすことになるのだった……。(つづく)
(Jan 15, 2017)