I Can Feel You Creep Into My Private Life
Tune-Yards / 2018 / CD
2018年に入ってからリリースされた新譜のうち、僕がもっとも盛りあがったのがこれ。ニューイングランド出身のメリル・ガーバスという女性によるソロ・プロジェクト、チューン・ヤーズの4thアルバム。
僕がこのグループの名前を知ったのは、たぶんセカンド・アルバムのときで、そのころは「tUnE-yArDs」という奇妙な表記を使っていたこともあって、「なにこのバンド、名前読めない」と思ってスルーしてしまった。もしくは音は聴いてみたけれど、その時点ではぴんとこなかったか(記憶にない)。少なくても今回このアルバムを聴くまで、僕はこのバンドにまったく興味を持っていなかった。
そんなバンドの音楽をこのタイミングで聴くことになったのは、この一月にまったく知っているバンドのリリースがなかったため。リリース・ラッシュも困るけれど、かといって新譜がぜんぜんないってのもつまらない。なのでメディアが取り上げている新譜のうちになにかおもしろい作品はないかと物色していて、ふと目についたのがこのアルバムだった。あ、このバンド知ってる(正しくは名前を見たことがある)と思って、じゃぁせっかくだから試しに聴いてみようということになったのだった(知らないバンドの新譜をフルで聴けるのがネットワーク時代のいいところ)。
そしたらば、だ。
これがよかった。すこぶるよかった。もう最初の一音めからよかった。一曲目のイントロで鳴る不協和音的なピアノのコード。その響きだけでもう、おっ、これはもしやと思わせるものがあった。そこから先はあっという間にどっぷり。
安直に表現すれば、ベックやセイント・ヴィンセント、ダーティー・プロジェクターズあたりに通じる豊かな音楽性を持った女性が、打ち込み主体でアフリカン・ビートをフィーチャーしたオルタナティブなダンス・ミュージックをやっている感じ。音は打ち込みなんだろうけど、ダーティー・プロジェクターズの最新作のように密室的ではなくてなく、ダンサブルで開放的なところがいい。
僕は民族音楽ってあまり得意じゃないけれど、彼女の場合はアフリカン・ビートが白人のセンスで中和されて、とても耳に馴染みやすい音になっている。昔ならばトーキング・ヘッズがやっていたことを、コンピュータの力を借りて現在進行形のソロ・ユニットでやっているとでもいった感じでしょうか。
とにかく歌モノ主体で聴きやすいし、かなりポップだと思うんだけれど、それでいて下手にポップすぎない。絶妙なさじ加減のダンス・ミュージックとして最高に気持ちよく聴ける。あまりによかったので、旧譜を含めて全作品をCDで買わずにいられないほど気に入りました。
あと、彼女の音楽ってあまり女性っぽくないところもおもしろいと思う。僕はこのアルバムを気に入って、そのプロフィールを調べるまで、このアルバムが女性の作品だってまったく気がつかないでいた。
いわれてみれば、ほとんどが女性の声のようだけれど、女性にしては声が低めなこともあって、僕は黒人の男性ボーカルが参加しているのだと思っていた。なので、このバンドが女性のソロ・ユニットだと知ったときにはマジで驚きました。ここまで女性性を感じさせない音楽を作る女性ミュージシャンって珍しい気がする。そういう意味でも貴重な存在だと思う。
というわけで、わずか一ヶ月でいきなり僕にとっての最注目アーティストのひとつとなったチューン・ヤーズ。今年はフジ・ロックで来日するらしいので、観にゆくべきか悩んでいる。
(Feb 25, 2018)