ぐされ
ずっと真夜中でいいのに。 / CD / 2021
僕にとっては疑いなく現時点での日本のポップ・ミュージックの最高峰、ずっと真夜中でいいのに。待望のセカンド・アルバム。
僕はこのアルバムを聴いて、本当に好きになるってこういうことなのかと思った。
このアルバムにはひとつまえのミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』から三曲が再収録されているし、映画のタイアップである『正しくなれない』『暗く黒く』の二曲と『勘ぐれい』は先行配信されていたので、それらの六曲については、このアルバムのリリース前から、すでに数えきれないくらいに聴いてきた。『暗く黒く』の配信シングルの再生回数が九十回というのを見て、自分でも驚いたくらい。
アルバムの収録曲は十四曲で、そのうち一曲はボーナス・トラックの『暗く黒く』のピアノ・バージョンだから、要するに初公開となった楽曲は七曲。つまりの正味半分に過ぎない。
でもそのことをまったく不満に感じないところがすごい。それどころか、『お勉強しといてよ』や『低血ボルト』は大好きな曲をもう一度アルバムで聴けてうれしいってくらいの勢いがある。
普段から最近のエレカシやバンプのアルバムを聴くたびに「新曲が少なくてつまらない」みたいなことばかり書いてきたけれど、本当に好きな曲ばかりだと、そういうことをまったく不満に思わないんだなって、自分で自分にびっくりしました。これぞまさに惚れた弱みってやつかもしれない。
ずとまよにとって二枚目となる今回のアルバムの特徴は、映画のタイアップでゴージャスな音作りがふさわしかったことから、オーケストラが大々的に導入されていること。でもそれによって全体的にメローでマイルドな仕上がりなっているかというと、一概にそうではないところがいい。『暗く黒く』とかゆっくりと始まるけれど、徐々にスピード感が増してゆく。『勘ぐれい』なんかもそうで、入りはゆっくりけれど、そんなスローペースでは我慢しきませんってばかりに、すぐに駆けだしてしまうような楽曲ばっかり。ほんと、九曲目のバラード『ろんりねす』までは、どれもけたたましくダンサブルだ。バラードと呼べるのはその曲と『過眠』の二曲しかない。これぞロック・ミュージック。この性急さが最高だ。
オープニング・ナンバーの『胸の煙』、終盤の『繰り返す収穫』、とりを飾る『奥底に眠るルーツ』の三曲では、これまであまりなかったタイブのメジャーコード感が強い、可愛いメロディーを聴かせてくれている。人によってはこれらの楽曲が今回のアルバムのいちばんの聴きどころかもしれない。
あと、今作でずとまよの個性が最大限に炸裂しているのが『機械油』。エレカシ宮本を思わせるドコドコとしたミディアム・テンポのリズムトラックが印象的なラップ・ナンバーで、ギターのかわりに津軽三味線をフィーチャーしたり、サビの歌詞では中国語を聴かせたりと、いろいろと無国籍ぶりが強烈なダンス・チューン。これ一曲でACAねがいかに非凡かが証明されていると思う。
その曲と並んで、個人的に今回のアルバムでもっとも胸に染みたのが『過眠』。ふたつの違った楽曲を強引にひとつにつなげたような構成のバラードで、曲の中核を占める部分はディズニーのサントラに収録されていてもおかしくないような、オーケストラ・メインのムーディーなアレンジがほどこされている。
でも僕が好きなのはその部分よりも、その前後の、曲のはじまりと終わりの部分。ACAねが鈴が鳴るようなウィスパー・ボイスで「冴えすぎるままに 不一致が流れてく」と歌いだす三十秒強のメロディ――これがとんでもなく切なく美しい。
あいかわらず歌詞の意味はちんぷんかんぷんだけれど、それでいて深く深く胸の奥に沁み込んでくる。基本的にずとまよのダンス・チューンをこよなく愛している僕としては、このアルバムでもっとも気に入ったのがバラードだったという事実が、自分でも意外だった。
まぁ、とはいっても『お勉強しといてよ』と『低血ボルト』の初出がこのアルバムだったら、その二曲がクライマックスだったかも(やはりダンサブルな曲が好き)。あと『機械油』もやっぱり特別です(なんでそんなタイトルなんだか、さっぱりわからないけど)。いずれにせよ駄作ゼロのとても素晴らしい作品。僕のずとまよフィーバーはまだまだ終わりそうにない。
この作品で唯一惜しむらくはラスト・ナンバーがボーナス・トラックであること。『暗く黒く』のツイン・ピアノ・バージョンはそれはそれで味わい深いのだけれど、でも最後がその曲で終わるのと、『奥底に眠るルーツ』で終わるのとでは、アルバムの印象がぜんぜん違う。個人的には後者で終わってくれたら満点だったなと思います。ボーナス・トラックをはずしたほうが、アルバムとしての完成度はより高くなる。
ということで、このアルバムについてはCDで聴くよりも、配信で全十三曲のセットリストを作って聴くのがお薦め。そういう意味でもストリーミング時代の現在進行形の作品だよなぁって思わせるアルバムだった。
六月にリリースされるアナログ盤も楽しみだ。
(Apr. 11, 2021)