Hey Clockface
Elvis Costello / 2020
去年の十月末にリリースされたエルヴィス・コステロの最新アルバム。
今作は三種類の音源から成り立っている。
先行配信された『No Flags』『We Are All Cowards Now』『Hetty O'Hara Confidential』の三曲は、コステロ先生がヘルシンキのスタジオに篭って、ひとりで録音したもの。どれも初期のころを思わせる、いかにもコステロらしいナンバーで、なかではコロナ禍の現状に対する鬱屈が炸裂した印象の『No Flag』がこのアルバムの個人的なフェイバリット。『Hetty O'Hara Confidential』はまるで『Hurry Down Doomsday』の双子の兄弟みたいだ。
『Newspaper Pane』と『Radio Is Everything』の二曲はニューヨークで、ビル・フリゼールらのジャズ・ミュージシャンと録音した曲。前者はホーンが入っている点を除けば、それほどジャズっぽくはない。過去にビル・フリゼールと共演したアルバム(タイトル忘れた)も特別ジャズっぽかった印象はないし、フリゼールという人はギタリストだから、基本的にセンスがロック寄りな気がする。
もう一曲のほうはコステロには珍しい(というか多分初の)スポークン・ワードのナンバーで、今回はオープニングを飾る『Revolution #49』も同じスタイルの楽曲。そちらはアンチ・ポップスなアプローチとそのタイトルから、否応なくビートルズの『Revolution 9』を思い出させるけれど、両者に関係があるかどうかはわからない(そもそも曲自体はまったく似ていない)。
その『Revolution #49』と表題作の『Hey Clockface』を含めた残りの全部がパリのスタジオで、スティーヴ・ナイーヴを含めたジャズ・ミュージシャンとレコーディングしたもの。その辺の曲もとくにジャズっぽくはなくて、ニューオリンズ風の表題作以外はバラード中心のしっとりとした仕上がりの曲が多いせいもあって、どちらかというとT・ボーン・バーネットと作った二枚のアルバムに近いものを感じた。『ヴィヴィアン・ウィップの告白』なんて演劇的なタイトルの曲があるのも、そうしたイメージを助長している。
以上、コステロのひとり仕事である三曲を筆頭に、異なる三つのセッションの音源がひとつに集められているあたりに、パンデミックの影響がひしひしと感じられる一枚。でもライブができないって嘆いているよりは、こうやってこつこつスタジオで新作を作るほうが、アーティストの姿勢としては正しいと思います。新作で変わらぬ歌声が聴けて、ファンとしても嬉しい。
(May. 30, 2021)