エレファントカシマシ
コンサートツアー Rock! Rock! Rock!/2001年1月4日/日本武道館
恒例となった正月の武道館も4年目の今年は随分と客の入りが寂しかった。去年まで二日だったのが一日に減ったというのに、二階席の半分は空席という状況。まあ昨今のはっきりしない活動内容だと無理もないかと思う。
今回の僕らの席は去年に引き続きアリーナだった。しかもステージ右のスピーカー前、最前列から二列目。アーティストを問わず、今までに見た武道館のライブではもっともステージに近い席だったんじゃないかと思う。
ただ、こういういい席の時に限って茶々が入るのが僕らの人生の常。この日のライブはCSでもって生放送されたため、目の前をクレーンカメラが行ったり来たりして、かなり目障りだった。加えてカメラ嫌いの僕は、映ったら嫌だなとつまらないことを気にしていて、集中力を削がれることにもなった。ちくしょう。
そういえばテレビの生放送があったせいか、ロビーを賑わすお祝いの花もいつになく多いようだった。有名人の個人名で贈られている花も数多くあったのだけれど、その中でひときわ注目すべきは、当然「椎名林檎」名義のもの。他の人がドラマや音楽番組の関係者だとわかるのに対して、彼女だけは、あちらがエレカシのファンであるという以外にこのバンドとのつながりが見えない。それゆえ祝うという気持ちが純粋に感じられて、
この日のライブ自体はそんな椎名林檎の祝福には相応しくない内容だったと僕は思う。二十一世紀の一発目を飾るとは思えないさえないコンサートだったとあえて言わせてもらう。
なにより一曲目が 『good-bye-mama』 だった時点でもうこの日のライブに期待ができないのは明らかだったと今になると思う。三曲目の 『soul rescue』 で一度はそんなことはないかもしれないと思わせてくれたものの、その後すぐに 『悲しみの果て』 が続き、それ以降もアンコール前まではメローなエレカシが前面に出た選曲だった。
会場にベタベタ張ってあったポスターが、バラード・アルバム 『sweet memory』 のものだったことを考えると、そのアルバムのコンセプトを踏まえて、あえて意識的にそちらの側面を強く打ち出したのかもしれない。この日初めて聞かせてもらった新曲 『孤独な太陽』 もそちらの路線の曲だったし……。
でもそうだとしたら、それは失敗だったと言わせてもらいたい。少なくても僕はエレカシのそうした面を生で見たいとは思わない。
もしも宮本が今までのメローな路線のファンをキープしつつ、 『ガストロンジャー』 系のハードネスを求めるファンも取り込んでいきたいと思っているとしたら、それは甘すぎるんじゃないだろうか。そうした両面をきちんと両立してゆくには、かなりの器用さが必要だろう。そして言ってはなんだけれど、エレカシというバンドには、そうした器用さはないと僕は思う。
まあ、そんな風に、いきなり文句ばかりになってしまったけれど、そうした不満を保留してみれば、この日のコンサートは、それなりにレベルが高かった。 『昔の侍』 は今まで見た中では一番良い演奏だったし、 『月の夜』 『珍奇男』 『so many people』 など、好きな曲も少なくなかった。本編こそメローさが目立ったものの、アンコールにはスピード感のある曲が並んでいた。メローな曲ではあるけれど、この日の 『武蔵野』 は代表曲と呼ぶに相応しい素晴らしさだった。打ち込みの使い方もだいぶ板についてきた。選曲も全編通してみれば、新旧硬軟取り混ぜたとてもバランスのよいものだった。なによりスピーカーが目の前にあったせいかもしれないけれど、音の良さは去年の比ではなかった。全体的に見れば、エレカシとしては最高の内容かもしれない。
なのにどうして酷評しなければ気がすまないのか。それは次の二点に尽きる。
一点目。それはこの日のコンサートからはエレファントカシマシのこれからの方向性がまったく見て取れなかったことによる。
『good morning』 という破格のアルバムを提示して大きな期待を抱かせておきながら、一気にそちらの方向へ突き進むことなく、新曲では再びそれ以前のメローな路線へと回帰している。全体的にバランスの取れた選曲だったと書いたけれど、逆にいえばそれは、 『good morning』 でみせた路線で突き進むことを躊躇しているという風に僕の目には映った。それは単にエレカシが目指している方向性が僕が望んでいるものとは違っているというだけなのかもしれない。でも、 『good morning』 を聴いてしまった以上、いまさらそれはないだろうと思わずにはいられない。この日のライブから僕はまったく新鮮さを感じられなかった。新しい要素はゼロだったと思う。それが一番悲しい。
その二はエスカレートする石クンいじめが度を過ぎていた点。アンコールの最後を飾る 『ガストロンジャー』 と 『コール アンド レスポンス』 の二曲で宮本は石クンのシャツを剥ぎ取り、ギターを取り上げ、頭上でのハンドクラップを要求して彼を笑いものにしてみせた。その風景は腹がよじれるほど滑稽だった一方で、たまらなく残酷だった。そしてまた二人がギターを弾いていなくても演奏が成り立ってしまうほどバンドの音が打ち込みに依存していることを曝け出した点で、たまらなく興醒めだった。
正直言ってこの日のライブを見て、僕は当分エレカシのライブには足を運ばない方がいいのかもしれないとさえ思ってしまった。まったく新しい方向性を打ち出せないまま、終始まとまりのない説教臭いMCを聞かせ続けた挙句、仲間を笑いものにする宮本なんて僕は見たくない。
(Jan 13, 2001)