エレファントカシマシ
激烈ロック・ツアーVol.1 1999→2000/2000年1月4日/日本武道館
去年の武道館でちょっと客が減ったような気がすると書いたけれど、今年はさらにまたちょっと減っていて、二階席は半分くらいしか埋まっていなかった。まあそれでも正月に武道館で二日やってある程度はきちんと売れるのだから、まだ人気の衰えはそれほどでもないのかなと思う。
ただ気になるのは客層で、しばらく前はTシャツにジーンズのロック少女が多かったような気がしていたのに、今年は妙に落ち着いたOL風の観客が多い印象だった。いずれにせよ男より女性の方が圧倒的に多い。テレビで見る宮本の奇矯な言動とそれなりのマスクのギャップが、それ程若くない女性たち(失礼)に受けているということなのだろう。どう考えてもああいう人たちが怒れる宮本に同調しているとは思えない。きっと彼女たちの大半は 『ガストロンジャー』 は嫌いに違いない(と勝手に思い込むやつ)。集客力の在り方に構造的な問題を感じさせる昨今のエレカシだった。
とにかくこれで三年連続しての、正月のエレファントカシマシ武道館公演。ここまで二年とも、武道館ではかなり気合いの入ったライブを見せてくれていたし、今回はなんといっても起死回生のシングル 『ガストロンジャー』 発売の直後ということで、大いに期待していた。
だにしかし。
なんだかもう、嫌になってしまうくらい音が悪かった。アリーナのステージに向って一番右端から3番目という席のせいもあったかもしれない。それにしても音が悪すぎた。ギターのアタック音はもとより、歌詞なども全然聞き取れない。特に宮本のギターがハードな曲がからきし駄目で、だから冒頭の2曲、 『Soul Rescue』 と 『So Many People』 なんかは悲惨極まりなかった。特に後者は初めて聴く曲だったから、どういう曲かまったくわからなかった。妻が賢くも、次回シングルとしてそのタイトルを覚えていてくれて、なおかつそのフレーズを聴き取っていたから、かろうじてその曲であるとわかったくらいだ。僕は彼女に教えられなかったら、それと知ることなく終わっていただろう。
3、4曲目には 『デーデ』 『星の砂』 というお馴染みのワンパターンが来た。この伝家の宝刀的メドレーを聞かせてもらうのも意外とひさしぶりだ。
この日はそのあとが最大の見どころ、聴きどころだった。 『真冬のロマンチック』 に続いての選曲がなんと、鳥肌が立ちそうに懐かしい曲、 『シャララ』。
僕にとってこの日のハイライトはなんと言ってもこの曲だ。この歌が聴けたというだけでも、武道館に足を運んだ甲斐がある。去年 『遁生』 を聴いた時にも思ったけれど、あの時期の息の詰まりそうな重い楽曲群は、不思議なもので、当時より力の抜けた今の宮本が歌っても全然違和感を感じさせない。というより軽くなった表現が当時とは違った味を出していて、僕はこれはこれで好きだ。できれば今のスタンスで、もっともっとあの頃の曲を取り上げて欲しいと切実に思う。
『シャララ』 のあとは宮本がパイプ椅子に座って、十六小節ばかりの即興らしき弾き語りに続いて 『珍奇男』 が披露された。常にライブのクライマックスのひとつであるこのナンバーなのだけれど、この日はどんなだったか、情けなくも今いち印象がない。
ともかくライブ中盤の定番であるこの曲といい、3曲目からの 『デーデ』 メドレーといい、ここまでの流れは見事にエレカシ定番中の定番といった印象のライブだった。
ところがこの日は、このあと思わぬ展開を見せる。続く 『真夜中のヒーロー』 『ゴクロウサン』 『花男』 の三曲でもって本編が終了してしまうのだった。ここまでの曲数は即興曲を含めてもわずか十一。演奏時間は一時間にも満たない。
後日インターネットの某所で、僕らが見逃した最近のライブでのセットリストを見たところ、去年後半からのツアーは大体いつもこんな調子だったようだ。ただその情報を知らなかった上に、ツアーの最終日とは言え武道館なのだから、きっとまた2時間は優に越すだろうと勝手に思っていた僕は、この本編の短さには呆気に取られた。
さらに言うなら、本編最後の2曲、『ゴクロウサン』 と 『花男』 の出来があまりよくなかったせいもあるだろう。両方ともイントロを故意か失敗かわからないけれど外してしまっていた。どちらもイントロから歌に入る部分でどかんと盛り上る曲なのに、この日はその本来の勢いを削がれてしまっていた。
またこの2曲での宮本の態度もクエスチョン・マークをつけたくなるようなものだった。なんだか知らないが妙に機嫌が悪そうに見えた。まるであたり構わず八つ当たりしているような暴れ方だった。まさかそんな態度のままステージから引っ込んでしまうなんて思わなかったし、お陰でアンコールを待つ間、妙に座りの悪い思いをさせられた。
アンコールの1曲目は 『奴隷天国』 だったけれど、これがまた迫力不足。宮本が妙に脱力している。あんなにやる気がなさそうな 『奴隷天国』 を聴かされたのは初めてだ。
続く 『男餓鬼道空っ風』 でも3コーラス目で歌詞を忘れたのかなんなのか、かなりいい加減な歌を歌う宮本。演奏の出来も悪く、こんなのに拍手なんかしてやるもんかと思っていたのだけれど、最後にあの「ヘーイヘイヘイヘーイヘイ」がなく、すっきりとした終わり方をしたのが意表を突いていて嬉しくて、結局つい拍手をしてしまった。
そのあとの 『てって』 は文句なしに嬉しい選曲だった。ただしこの曲の最中に石クンのギターを替えようとしていたスタッフを宮本が下がらせるという一幕があり──大体にしてギターが石クン一人のこの曲の最中に、どうやってギターを替えるつもりだったのだかわからないけれど──、ここでもバンドとスタッフ間のまとまりのなさを感じさせた。
このあと 『やさしさ』 『ファイティングマン』で一回目のアンコールは終了。
そしてしばらくの後、2度目にして最後のアンコールで、待望の 『ガストロンジャー』 が披露された。でも、エレカシ初の打ち込み使用のこの曲は、最初からの音の悪さが響いて、なにがなんだかわからなかった。まあ激しさだけは十分伝わったし、ライティングも珍しく凝っていたし、これはこれでよしとしたい。
それにしても以上全十七曲のうち、ファースト・アルバムの曲が実に7曲。あまりにもエレカシというバンドのこれからを感じさせない内容に僕はがっくり来た。
なんとこの日は 『ココロに花を』 以降のアルバムに収録された曲は一曲も披露されていない。 『悲しみの果て』 も 『今宵の月のように』 もなし。つまりヒット曲は0。さすがにこの内容には観客の多くが欲求不満だったらしく、 『ガストロンジャー』 が終わって客席の照明がつき、終了のアナウンスが流れる中もアンコールの拍手は鳴り止まなかった。それがすごくよかったからという積極的なものではなく、ものたりなさゆえなのがわかるのがちょっと情けなかった。
僕自身はそれらのシングル曲が演奏されなかったことには不満はないし、逆にそのこと自体は嬉しいくらいだ。けれど行き詰まるたびにファーストで誤魔化してばかりいるエレカシというバンドを昔から見てきているので、今回の心機一転のはずのライブで、またそうした悪い傾向が出てしまったことには正直失望した。
なぜもっとバランスの取れた選曲ができないのか。なぜもっと気のきいた曲の並べ方にしないのか。なぜもっとボリュームのあるライブができないのか。昔からこのバンドに対してはそうした「なぜ」ばかりを発し続けている気がする。大いに期待した今回のライブでも、そうした疑問は解消されなかった。
ただ前日のライブではアンコールの内容が全然違い、最近のシングル中心の選曲であったことを今日になってインターネットで知った。だから二日をトータルで考えれば、この日のファースト偏向のセットリストもありなのかなとちょっと考えもしたけれど。
でもやっぱり駄目なものは駄目だ。
エレカシの一番の課題はいかにファーストアルバムの呪縛を逃れるかではないのかと切実に思う今日この頃だった。
(Jan 12, 2000)