2000年のコンサート

Index

  1. エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan 4, 2000)
  2. ストリート・スライダーズ @ 新宿リキッドルーム (Apr 5, 2000)
  3. スピーチ @ 赤坂ブリッツ (Apr 27, 2000)
  4. フィオナ・アップル @ 中野サンプラザ (May 8, 2000)
  5. エレファントカシマシ @ 新宿リキッドルーム (Jun 2, 2000)
  6. スマッシング・パンプキンズ @ 日本武道館 (Jun 30, 2000)
  7. エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Jul 1, 2000)
  8. ストリート・スライダーズ @ 日本武道館 (Oct 29, 2000)

エレファントカシマシ

激烈ロック・ツアーVol.1 1999→2000/2000年1月4日/日本武道館

ガストロンジャー

 去年の武道館でちょっと客が減ったような気がすると書いたけれど、今年はさらにまたちょっと減っていて、二階席は半分くらいしか埋まっていなかった。まあそれでも正月に武道館で二日やってある程度はきちんと売れるのだから、まだ人気の衰えはそれほどでもないのかなと思う。
 ただ気になるのは客層で、しばらく前はTシャツにジーンズのロック少女が多かったような気がしていたのに、今年は妙に落ち着いたOL風の観客が多い印象だった。いずれにせよ男より女性の方が圧倒的に多い。テレビで見る宮本の奇矯な言動とそれなりのマスクのギャップが、それ程若くない女性たち(失礼)に受けているということなのだろう。どう考えてもああいう人たちが怒れる宮本に同調しているとは思えない。きっと彼女たちの大半は 『ガストロンジャー』 は嫌いに違いない(と勝手に思い込むやつ)。集客力の在り方に構造的な問題を感じさせる昨今のエレカシだった。
 とにかくこれで三年連続しての、正月のエレファントカシマシ武道館公演。ここまで二年とも、武道館ではかなり気合いの入ったライブを見せてくれていたし、今回はなんといっても起死回生のシングル 『ガストロンジャー』 発売の直後ということで、大いに期待していた。
 だにしかし。
 なんだかもう、嫌になってしまうくらい音が悪かった。アリーナのステージに向って一番右端から3番目という席のせいもあったかもしれない。それにしても音が悪すぎた。ギターのアタック音はもとより、歌詞なども全然聞き取れない。特に宮本のギターがハードな曲がからきし駄目で、だから冒頭の2曲、 『Soul Rescue』 と 『So Many People』 なんかは悲惨極まりなかった。特に後者は初めて聴く曲だったから、どういう曲かまったくわからなかった。妻が賢くも、次回シングルとしてそのタイトルを覚えていてくれて、なおかつそのフレーズを聴き取っていたから、かろうじてその曲であるとわかったくらいだ。僕は彼女に教えられなかったら、それと知ることなく終わっていただろう。
 3、4曲目には 『デーデ』 『星の砂』 というお馴染みのワンパターンが来た。この伝家の宝刀的メドレーを聞かせてもらうのも意外とひさしぶりだ。
 この日はそのあとが最大の見どころ、聴きどころだった。 『真冬のロマンチック』 に続いての選曲がなんと、鳥肌が立ちそうに懐かしい曲、 『シャララ』。
 僕にとってこの日のハイライトはなんと言ってもこの曲だ。この歌が聴けたというだけでも、武道館に足を運んだ甲斐がある。去年 『遁生』 を聴いた時にも思ったけれど、あの時期の息の詰まりそうな重い楽曲群は、不思議なもので、当時より力の抜けた今の宮本が歌っても全然違和感を感じさせない。というより軽くなった表現が当時とは違った味を出していて、僕はこれはこれで好きだ。できれば今のスタンスで、もっともっとあの頃の曲を取り上げて欲しいと切実に思う。
 『シャララ』 のあとは宮本がパイプ椅子に座って、十六小節ばかりの即興らしき弾き語りに続いて 『珍奇男』 が披露された。常にライブのクライマックスのひとつであるこのナンバーなのだけれど、この日はどんなだったか、情けなくも今いち印象がない。
 ともかくライブ中盤の定番であるこの曲といい、3曲目からの 『デーデ』 メドレーといい、ここまでの流れは見事にエレカシ定番中の定番といった印象のライブだった。
 ところがこの日は、このあと思わぬ展開を見せる。続く 『真夜中のヒーロー』 『ゴクロウサン』 『花男』 の三曲でもって本編が終了してしまうのだった。ここまでの曲数は即興曲を含めてもわずか十一。演奏時間は一時間にも満たない。
 後日インターネットの某所で、僕らが見逃した最近のライブでのセットリストを見たところ、去年後半からのツアーは大体いつもこんな調子だったようだ。ただその情報を知らなかった上に、ツアーの最終日とは言え武道館なのだから、きっとまた2時間は優に越すだろうと勝手に思っていた僕は、この本編の短さには呆気に取られた。
 さらに言うなら、本編最後の2曲、『ゴクロウサン』 と 『花男』 の出来があまりよくなかったせいもあるだろう。両方ともイントロを故意か失敗かわからないけれど外してしまっていた。どちらもイントロから歌に入る部分でどかんと盛り上る曲なのに、この日はその本来の勢いを削がれてしまっていた。
 またこの2曲での宮本の態度もクエスチョン・マークをつけたくなるようなものだった。なんだか知らないが妙に機嫌が悪そうに見えた。まるであたり構わず八つ当たりしているような暴れ方だった。まさかそんな態度のままステージから引っ込んでしまうなんて思わなかったし、お陰でアンコールを待つ間、妙に座りの悪い思いをさせられた。
 アンコールの1曲目は 『奴隷天国』 だったけれど、これがまた迫力不足。宮本が妙に脱力している。あんなにやる気がなさそうな 『奴隷天国』 を聴かされたのは初めてだ。
 続く 『男餓鬼道空っ風』 でも3コーラス目で歌詞を忘れたのかなんなのか、かなりいい加減な歌を歌う宮本。演奏の出来も悪く、こんなのに拍手なんかしてやるもんかと思っていたのだけれど、最後にあの「ヘーイヘイヘイヘーイヘイ」がなく、すっきりとした終わり方をしたのが意表を突いていて嬉しくて、結局つい拍手をしてしまった。
 そのあとの 『てって』 は文句なしに嬉しい選曲だった。ただしこの曲の最中に石クンのギターを替えようとしていたスタッフを宮本が下がらせるという一幕があり──大体にしてギターが石クン一人のこの曲の最中に、どうやってギターを替えるつもりだったのだかわからないけれど──、ここでもバンドとスタッフ間のまとまりのなさを感じさせた。
 このあと 『やさしさ』 『ファイティングマン』で一回目のアンコールは終了。
 そしてしばらくの後、2度目にして最後のアンコールで、待望の 『ガストロンジャー』 が披露された。でも、エレカシ初の打ち込み使用のこの曲は、最初からの音の悪さが響いて、なにがなんだかわからなかった。まあ激しさだけは十分伝わったし、ライティングも珍しく凝っていたし、これはこれでよしとしたい。
 それにしても以上全十七曲のうち、ファースト・アルバムの曲が実に7曲。あまりにもエレカシというバンドのこれからを感じさせない内容に僕はがっくり来た。
 なんとこの日は 『ココロに花を』 以降のアルバムに収録された曲は一曲も披露されていない。 『悲しみの果て』 も 『今宵の月のように』 もなし。つまりヒット曲は0。さすがにこの内容には観客の多くが欲求不満だったらしく、 『ガストロンジャー』 が終わって客席の照明がつき、終了のアナウンスが流れる中もアンコールの拍手は鳴り止まなかった。それがすごくよかったからという積極的なものではなく、ものたりなさゆえなのがわかるのがちょっと情けなかった。
 僕自身はそれらのシングル曲が演奏されなかったことには不満はないし、逆にそのこと自体は嬉しいくらいだ。けれど行き詰まるたびにファーストで誤魔化してばかりいるエレカシというバンドを昔から見てきているので、今回の心機一転のはずのライブで、またそうした悪い傾向が出てしまったことには正直失望した。
 なぜもっとバランスの取れた選曲ができないのか。なぜもっと気のきいた曲の並べ方にしないのか。なぜもっとボリュームのあるライブができないのか。昔からこのバンドに対してはそうした「なぜ」ばかりを発し続けている気がする。大いに期待した今回のライブでも、そうした疑問は解消されなかった。
 ただ前日のライブではアンコールの内容が全然違い、最近のシングル中心の選曲であったことを今日になってインターネットで知った。だから二日をトータルで考えれば、この日のファースト偏向のセットリストもありなのかなとちょっと考えもしたけれど。
 でもやっぱり駄目なものは駄目だ。
 エレカシの一番の課題はいかにファーストアルバムの呪縛を逃れるかではないのかと切実に思う今日この頃だった。
(Jan 12, 2000)

ストリート・スライダーズ

The Late Show (Night)/2000年4月5日/新宿リキッドルーム

Get Up&Go

 妻以外の人とライブに行ったのはひさしぶりだった。いや、そもそもスライダーズのライブを見ること自体が実にひさしぶりだった。一体いつ以来だろうと思い返してみても記憶が怪しい。96年にエレカシとのジョイントを見たのが最後だろうか。単独公演となると一人で見に行った冬眠前の武道館が最後かと思う。もとより思い入れの強い割には生で見た回数が少ないバンドではあるけれど、近頃は随分とご無沙汰してしまっていた。
 ライブに行かないことについては、うちの嫁さんが聴かないからというのが大きい。スライダーズに限らず、子供が生まれてからライブに行く回数が激減したのは、ひとえに彼女の不在によるものだ。やはりこの年になると一人きりでライブに足を運ぶには結構気合が必要になる。今回だって友人が観たいなんて言い出さなければ、まず観に行っていないだろう。集団行動や人混みが嫌いな僕としては、ライブに行くこと自体にある種のストレスを覚えてしまうので、その辺は致し方ない。
 今回足を運んだライブは、3月から4ヶ月連続で毎月5日に行われている 『The Late Show』 と銘打ったシリーズのうちの第2回目で、さらに各日一日二回行われるうちのあとの方の回だった。開演時間は平日夜の十時半と遅い。なので始まるまでの間、ひさしぶりに友人たちと軽く飲み交わし、ほろ酔い気分で楽しむという、普段はあまりない展開になった。
 先月のセットリストがインターネットで公開されていたため、『Night』 の部は最初がアコースティック・セットであること、アンコールがオールディーズのカバーであることは最初からわかっていた。構成がある程度知れている上に酒が入っていたため、いつになくリラックスした気分で楽しめたコンサートだった。
 オープニングからの5曲はやはり3月と同様、アコースティックセットで演奏された。これがとても音がいい。ホールの音響がいいのか、スライダーズのミキサーの腕がいいのか、感心することしきりだった。ただ楽曲は 『Tsumuji-Kaze』 『7th Ave. Rok』 『Baby, Don't Worry』 『Bun Bun』 『Angel Duster』 と特別な思い入れのない曲ばかりなのが、やや残念だったけれど。
 その後、ギターがエレキに変わってからも音の良さに対する好感、そして選曲に対するものたりなさはずっと一貫していた。
 ハリーと蘭丸がギターを持ち替えてからの5曲が新曲だった。
 最初はインスト。次の2曲がオーソドックスなロック・ナンバー。続いてまるでエレカシみたいなコード進行の曲。コード進行というよりカッティングの問題だろうか。ハリーの代名詞みたいな8ビートのカッティングではなく、エレカシの最近の曲のように、コードをガーっと鳴らすメロディアスなやつ。これにはかなり意表を突かれた。
 新曲の最後は蘭丸のファンク・ナンバーでこれが実に蘭丸らしく、今までこういうのがなかったのが不思議なくらいだった。ある意味この曲が新曲の中では一番よかった。蘭丸の歌ものが一番好印象だなんて、新譜がどうなるのか、やや不安だ。
 その後は蘭丸のきらびやかなギターサウンドが印象的な 『Shining You』 、思いのほかスライダーズの王道路線だった 『Get Up & Go』 と最近のシングルが続けて演奏され、結びに 『So Heavy』 と 『Boys Jumps The Midnight』 が、がーんと鳴らされて本編は締めとなった。
 アンコールは 『Pain In My Heart』 と 『Slippin' And Slidin'』 の2曲。ハリーの発声が日本語の歌の時とまったく同じなところがおかしい。
 全体的にやはり選曲が先月と比べると淋しかった。三月にはアコースティックで 『Oh 神様』 や 『お抱え運転手にはなりたくない』 が、アンコールでは 『Walkin' The Dog』 に 『Around And Around』 が演奏されている。そっちの方が僕としては好みだ。ぜひ聞きたかった。
 結局振り返ってみると、普通に演奏された往年のナンバーは本編最後の二曲に過ぎない。これじゃあものたりないのも当然だ。もう一度見にゆこうかと思うくらいだけれど、あとの二日はどうもスケジュール的にうまくない。今回の企画は諦めるにせよ、今後はあまり間を置かずに見にゆくようにしようと思う。やはりこのバンドは一人でも行かなければならないと思わされた今回のスライダーズだった。ご無沙汰して恐縮だ。
(Apr 15, 2000)

追記:インターネットで後日発表されたセットリストを見たら 『マスターベーション』 も演奏されていた。全然記憶から抜け落ちていた。

スピーチ

Japan Tour 2000/2000年4月27日/赤坂ブリッツ

スピリチュアル・ピープル

 スピーチの前回の来日はソウル・フラワーとのジョイント・コンサートだった。妻が妊娠中だったため、ひとりで観に行った。その時そのあまりに和気あいあいとした内容に、こりゃあ僕より妻の方が好きかもしれないと思った。なので今回の来日が決まった時にはすぐに妻に薦めた。彼女も躊躇わずチケットを取った。
 赤坂ブリッツでのライブをスタンディングで見るのは、たぶんこれが初めてだと思う。いつもは2Fの指定席を取っているのだけれど、今回は発売日を忘れていたせいで立ち見しか取れなかった。それがまずかった。会社帰りにスーツ姿で2時間以上の立ち見はつら過ぎた。二日たった今日になってもまだ疲れが取れない感じだ。途中まで前に立っていた若いサラリーマンも目障りで、コンサートにまったく集中できなかった。なので楽しさ半分という感じになってしまった。
 とはいえスピーチはやはり見事だ。エンターテイメントとしてのヒップホップの素晴らしさを十二分に感じさせてくれる内容だった。ファンもこの国では決してメジャーではない音楽を好んで聴くようなリスナーばかりだから、すごくノリがいい。僕が足を運んだコンサートの中でも最上級の盛り上がりだったと思う。特に 『People Everyday』 が始まった時の爆発するような観客のリアクションは凄まじかった。あの曲があんなに盛り上るってのも結構不思議な気がする。その辺がヒップホップのおもしろさかもしれない。
 前回もそうだったけれど、今回も感心したのがコール・アンド・レスポンスにおける場内の一体感。あれくらい観客が声を出しているライブというのはそうそうない。前回はまだエレカシがさまにならないコール・アンド・レスポンスを観客に要求している頃だったので、ぜひこれを宮本に見てもらいたいと思ったものだった。これこそ本当のコール・アンド・レスポンスってもんだろうと思った。
 音楽的な話には全然触れていないけれど、とにかくひさしぶりのオール・スタンディングのうえに、まわりにいた変な客の動きのせいで気が散ってしまって、あまり音楽には集中できなかった感じがあった。メンバーはベース、ドラム、ギター、キーボード、パーカッションに女性コーラス4人+スピーチの(恐らく)計10人の大所帯。音的には最近のブラックミュージックの主流という感じの、ガツンガツンした硬質なドラムの音が印象的だった。全体のバランスもよかったと思う。もっとじっくり感じたかった。残念。
 この夏にはアレステッド・ディベロップメントも復活するらしい。今のところフェスティバルへの参加しか決まっていないようだけれど、単独公演があるようならまた見に行ってもよいかなと思う。
(Apr 29, 2000)

フィオナ・アップル

2000年5月8日/中野サンプラザ

When The Pawn...

 僕は正直なところ、この女の子を{あなど}っていた。
 別に好きでたまらないというアーティストではない。アルバムもそれほど熱心には聴いていない。たまたま友人が関心を示していたので、それならば一緒に行ってみるかと足を運んだコンサートだった。だがしかし。
 これが素晴らしかった。
 音楽的には完璧だったとは思わない。アルバムの音に忠実なバンド・アレンジは、録音された音の繊細さと比べるとややまとまりを欠いていた印象だった。特に今回のアルバムの目玉である 『Fast As You Can』 が一番失敗じゃなかったかと思う。緩急が上手くつけられず、あの曲の持つ強烈な緊張感が出せていなかった。他の曲では好感を持てたアーシーなギターも、この曲では浮いて聞こえた。あと、この曲に限った話ではないけれど、全体的にキーボードの音が安っぽくて頂けなかった。
 それでも、そんなマイナス面を凌駕して余りあるほど、フィオナ・アップルというボーカリストの存在感は圧倒的だった。
 とにかくその声。
 あまりに成熟したクラシカルなボーカルスタイルのためか、僕は彼女があれほどの爆発力を秘めているという事実にまったく気がついていなかった。
 なにしろ盛り上げるべきところでの弾け方がとにかくすごい。時にその声は暴力的でさえあった。ボーカリストとしての表現力、破壊力においてアラニス・モリセットにも決して引けを取らないのではと思う──って、あちらを観たこともないのに書くのもなんだけれど。
 そもそも基本的に彼女の楽曲にはラウドな曲がほとんどないものだから、僕はこの日のコンサートはもっとおとなしいものになるのだろうと思っていたのだった。ところが彼女のボーカルには静かに耳を傾けるなんて姿勢を許さない迫力があった。そしてその迫力に引きずられてそうなってしまったかのように、バンドのサウンドも思いのほかワイルドにガチャガチャしていた。そう、彼女のバンドは十分過ぎるほどにロックだった。
 おもしろいなと思ったのはファーストとセカンドの曲で乗りがかなり違う点だ。デビュー・アルバムに比べて新作の方がリズムが多彩になっている。だからライブではどちらかというと新作の曲の方が盛り上るのだろうと僕は思っていた。
 ところが結果は逆。ライブならではの盛り上りを見せていたのは、圧倒的にファーストの曲の方だった。結局、シンプルなリズムの曲の方が、盛り上り易いという、ただそれだけことなのかもしれないけれど。
 あと、音楽以上に驚かされたのは彼女のキャラクターだった。
 オープニングには新作の冒頭の2曲が続けて演奏された。フィオナ・アップルはステージ左寄りに配置されたピアノに向って歌っていた。彼女の背後からのライトが会場の右の壁に蒼白い半円を描き出し、その中で彼女の大きな影がゆっくりと揺れ動いていたのが印象的だった。
 さて、その2曲が終わったあとのことだ。彼女はピアノを離れてステージ中央のマイクへと移動した。そして片手のアンチョコを見ながら「コンバンワー、ゲンキー」と片言の日本語を発したかと思うと、極東異国の観客の前に立った興奮からか、唐突にキャーキャー飛び跳ねながら、はしゃぎ出したのだった。あらら。
 確かに彼女の年齢を考えれば、ああいうのはそれほど違和感がないだろう。でも彼女の音楽からは、彼女のそうした面はまったくうかがい知ることができない。おかげで彼女のそのはしゃぎようには、かなり唖然とさせられた。日米の林檎さんは、どうしてどちらもあんなに躁鬱の落差が激しいのだろう、などと思ってしまった。
 でもまあ、そんな彼女の若さの発露は、それはそれで愛らしかったのも確かだ。その声からは伝わらない年相応の仕種を見せてくれたことでちょっと安心しもした。ステージで素直に笑えるようならば大丈夫だろうと。
 さて、その注目の3曲目で早くも演奏されたのが 『Criminal』 だったのだけれど、この曲での彼女のダンスにまたびっくり。スタンド・マイクを前に、セクシーなんだか、なんなんだかよくわからない、不思議な踊りっぷりを見せてくれた。
 そういえば初めて彼女を知ったこの曲のビデオクリップでは、彼女はピアノなんか弾いていなかった。なのに僕は新作のイメージで、彼女がずっとピアノを弾いたまま歌うものだと思い込んでいた。だからマイクだけで歌うこと自体にまず驚いた。しかもそのダンスがすごい。細い腕をくねくねと振り回し、これまた細い腰をくねらす。これはただもうじっとしていられないだけなんじゃないかと思わせるようなその動きは、でもそれゆえに彼女の人柄をしのばせて、それはそれでまた、素晴らしかったのだけれど。
 以降2、3曲ごとにピアノに向ったり、マイクだけで歌ったりを繰り返しつつ本編は14曲で終了。新作の全曲に加えて、ファーストから 『Criminal』 『Sullen Girl』 『Sleep To Dream』 『Carrion』の4曲という構成だった。
 アンコールでは、まずカラオケでジャズ・ボーカルのスタンダードナンバーを1曲披露。あのボーカルでこういう曲をやられてしまうとはまり過ぎだ。
 最後は再びバンドでジャニス・ジョプリンを彷彿させるR&Bナンバーを聴かせてこの日のコンサートは終了した。正味1時間半にも満たなかったと思うけれど、それでも十分満足させてもらった。もう一度見たいと思った。
(May 14, 2000)

エレファントカシマシ

超激烈 ROCK TOUR/2000年6月2日/新宿リキッドルーム

good morning

 新作『good morning』 は、 『ガストロンジャー』 から受けた期待を裏切らない素晴らしさだった。その最新作を受けての今回のライブだ。期待は当然高かった。そしてある意味ではその期待は裏切られなかった。ただし別の意味で大変問題を感じさせる内容のコンサートでもあった。
 個人的には実にひさしぶりにライブハウスで見るエレカシだった。最後にこのキャパの会場でエレカシを見たのは 『ココロに花を』 のリリース以前のクアトロになるのではないかと思う。リキッドルームは歌舞伎町のひなびたビルの7階という場所が理由であまり好きなホールではないのだけれど、先だってのスライダーズで音響的には結構見直していたところだったし、やはりなんといってもあれくらいのサイズの方がロックは盛り上がる。エレカシの再出発を飾るツアーを初体験するにはもってこいの会場だった。
 オープニングは 『so many people』 。音の良さは、何を歌っているか全然わからなかった武道館の時とは雲泥の差だ。全体のバランスが良く、特にボーカルのとおりは抜群だった。かつてのような轟音とはいかないまでも十分満足のいくレベルだった。
 ところが宮本はなぜだか妙にその音響にこだわっていた。前半から「聞こえますか」という発言を連発する。PAになにか問題があったのかもしれない。それが原因だったのか、前半からコンサートは波乱含みの展開を見せる。
 冒頭から 『悲しみの果て』 『風に吹かれて』と、ブレイク以降のエレカシを代表する、僕にとってはあまり嬉しくない二曲が続けて演奏される。どちらも以前より好感を与える演奏で、特に後者はエレカシにしては珍しく、ズバっと決まったライブ用の新しい導入フレーズから始まり、アレンジも若干修正されて、アルバムのバージョンよりリズム感が増しているように感じられた。まあそれはライブハウスという箱ゆえの印象でしかなくて、実際はまったく変わっていなかったのかもしれないけれど。それでもエレカシの再生を感じさせてくれるには充分な演奏だった。
 ところがこのあと、突発的にステージ上で、ぎこちない雰囲気が漂う事件が起る。
 4曲目に予定されていた曲は 『誰かのささやき』 だった。今回のツアーでは、かつての曲にも打ち込みの音をかぶせるという新しい試みが行われていたのだけれど、この日その一発目だったこの曲で宮本は、最初の1小節ばかりギターを鳴らすや否や演奏を中断した。そしてステージ裏へ注文をつけて打ち込みの音を止めさせ、替わりに 『孤独な旅人』 を演奏し始めたのだった。メンバーも突発的な事態に慌てて楽器を取り替えていた。
 ギターのチューニングに問題があったのかもしれない。ほかの原因はちょっと思い当たらない。けれど予定をいきなり変更して、本来予定されていた曲を飛ばしたその宮本の行為には、メンバーやスタッフのみならず、観客をも戸惑わせるものがあった。宮本は妙に苛立っているように見えた。
 結局 『誰かのささやき』 はその次に演奏された。お陰で中断されたのがその曲だったことがわかったわけだけれど、ともかくこの事件(ちょっと大袈裟な物言いになってしまうけれど)以降も、今日の宮本は終始そんな調子だった。ひさしく見なかった、とっつきにくい雰囲気を漂わせ続けていた。
 観客とのやりとりもいつになく攻撃的だった。例えば「楽しんでって」みたいなことをMCで言っておきながら、あるファンが「楽しくやろうよ」と叫べば、「出てけよ、そんなこと言われたくねえよ」と返す。「サイコー」と叫ぶファンがいれば「うるせえ」と返す。まあ、その時は続けて「サイコーなのはそっちだ」と叫んで上手くフォローしていたけれど、僕には「うるせえ」という最初の言葉の方が、彼の正直な気持ちに思えた。
 そんな宮本の態度は前半でのぶっきらぼうなメンバー紹介にも表れていた。いつもはひとりひとりをフルネームで大袈裟に紹介する彼が、この日の前半の、その妙にぎこちないムードの中で行ったメンバー紹介は、「ドラム富永、ベース高緑、ギター石森、そして宮本です」みたいな素っ気ないものだった(敬称がついていた気もする)。僕は彼のそんな態度に、まるでメンバーひとりひとりを突っ放すような、お前らにはこれで十分だと言っているような印象を受けた。
 さらに言えば、MCも今までとは感じが変わっていた。話している内容はそれほど変わっていないのだけれど、以前は客に媚びているような印象だったのが、今回に関しては、ある種の苦々しさを滲ませながら本音を語っているような感じだった。ロッキングオンJAPANの山崎さんに対する言及などは愚痴に近いものがあった。なにを言っているのかよくわからなかったけれど。
 しかしながら、こうしたさまざまな断片の積み重ねから生じたダウナーな印象も、中盤においては、いったんは改善された。 『今宵の月のように』 ──この曲も宮本の弾き語りの部分をレコーディングのバージョンより長くした新しいアレンジで好感が持てた──を終え、次の 『ゴッドファーザー』 からが本日のハイライトだった。以降 『武蔵野』 『good morning』 『コール アンド レスポンス』 と新曲ばかりを続けた本編のエンディングまでの構成は、文句なく素晴らしかった。
 特に 『good morning』 のパフォーマンスは圧巻だ。この曲でのスーパーハイテンションなボーカルは強烈の一言に尽きた。極端に言えば、この一曲を聴けただけでもこの日のライブに足を運んだ甲斐があると言ってもいいほどだった。かつての代表曲 『待つ男』 『珍奇男』 『男は行く』 などのパフォーマンスに匹敵した。
 あとこちらは小技だけれど、 『コール アンド レスポンス』 の前振りがユーモアに溢れていてよかった。
 「レディース・アンド・ジェントルマーン、グッド、グッド、グッド・イ~ブニング」
 これには大笑いしてしまった。勿論、この曲自体のパフォーマンスも文句なし。ここのまでの流れについては、ここ数年で最高に盛り上がらせてもらった。
 なのに……。
 その高揚感がアンコールに持続しない。
 最初のアンコールではまず、 『I am happy』 と 『Baby自転車』が、あたりさわりなく、さらっと演奏された──もしかしたらその間にもう一曲くらいあったかもしれないけれど、記憶にない。さらにワンコーラスのみの謎の新曲がエレキの弾き語りで披露され、そのあとがまた打ち込みのイントロで始まる 『ココロに花を』 だったのだけれど、宮本はこの曲を再び 『誰かのささやき』 の時と同じパターンで、頭のフレーズだけで中断。結局この曲はふたたび演奏されることなく終わってしまう。
 結局、替わりとばかりに 『眠れない夜』 が演奏されて、一度目のアンコールは終わった。この曲が演奏されること自体が意外だった上に、曲のラストのフレーズで「畜生ーっ」というシャウトが連発されていたため、オリジナルと随分イメージが違っていた。あれ、この曲ってこんなだったかと思った。
 で、そのあとの再度のアンコールは 『ガストロンジャー』 。
 そう僕は思っていたし、当初はその一曲の予定だったのだろう。ところが宮本はステージに戻って来てから気を変えて、唐突に追加で 『soul rescue』 を演奏することに決める。最初は持っていなかったギターを、スタッフに要求して持ってこさせたことでもそれは明らかだ。そして困ったことにこの曲が、この日のライブの印象を、無茶苦茶なものにしてしまった。
 なにが宮本の気に障ったのかわからない。けれど明らかに彼は自らが始めたこの曲の演奏に苛立っていた。最初の数フレーズで宮本はギターをドラムセットに叩き付けて演奏を目茶苦茶にしてしまう。立て続けに今度は石クンに襲いかかり、彼の服を脱がせ、ギター・アンプの電源を切る。バンドの音はスカスカになる。そんな状況にお構いなく宮本はマイクの前に戻り、ひとりギターをかき鳴らして歌を歌い始める。バンドはそんな彼の奇行に戸惑いながら、彼の暴走に音を合わせてゆく。ひどい内容だった。
 そのあまりのひどさに、そのあとで演奏されたラストの 『ガストロンジャー』 では、僕の気分は引いたままになってしまった。この曲自体は決して悪い出来ではなかったにもかかわらず、僕はまったく盛り上がれなかった。
 全体的な出来として考えれば、この数年でもっとも意欲的な内容だったと思う。ファーストからの曲は一曲もなし、最新作からの曲がライブのハイライトを十分に飾っていたという点において、再出発に相応しい内容だった。でも一連の宮本の振る舞いに加え、 『孤独な旅人』 や 『Baby自転車』 という再出発にはふさわしくない選曲があったことを加味すると、今日のライブの印象はプラスマイナス0というのが正直な感想だ。
 ただ、だからといって一概に宮本を責める気分にはなれない。僕には彼の憤りの原因がなんとなく推測できるからだ。
 正直言って宮本と観客との間に意識のずれを感じる。
  『コールアンドレスポンス』 の「全員死刑です」という部分で「うぉー」と盛り上がる観客というのはなんなのか。 『soul rescue』 の「我らに勇気を」というフレーズに諸手を挙げるオーディエンスたちは、きちんとそのメッセージを受けとめているのか。そういう事を考えると疑問は否めない。
 今日のライブで宮本は 『ガストロンジャー』 の詞を「自分自身の化けの皮をはがしに出かけようぜ」と変えて歌っていた。疑うべきは“奴ら”ばかりではない。“奴ら”を告発する彼を支持する僕らは、その告発に便乗しているだけじゃないのか?
 おまえたちは“奴ら”とどう違う?
 おまえたちは“奴ら”と戦うべくなにをしている?
 僕には宮本がそんな疑問提起をしているように思えてならない。いや、彼はデビュー以来、終始そうした疑問提起をし続けてきたはずだ。
 それに対して僕らはどう答えたか。
 僕は十分に答えられていない自分を自覚している。それに答えるべく日々を暮らしているつもりはある。けれどいまだ胸を張って彼に答えることができるレベルには遠く至らない。
 僕が読み取れないだけで、多くのリスナーはそれぞれの答えを持っているのかもしれない。でも、当然のことながら、それらの答えは彼には伝わっていないのだろう。だからこそ宮本は苛立っている。自らのメッセージをきちんと伝える能力のないメンバーに、スタッフに、そしてそれを受け取っているように感じさせない観客に。
 今日のライブは僕の目には、そんな風に映った。
 大変考えさせられるコンサートだった。ただ少なくても、そんな風に感じさせてくれるようになった分、エレカシはふたたび僕の近くに戻って来てくれたのだと思う。そのことを祝しつつ、日々精進を重ねながら次の野音を待ちたい。
(Jun 03, 2000)

スマッシング・パンプキンズ

2000年6月30日/日本武道館

Machina: The Machines of God

 新作でようやくその魅力を認識できたと思ったら、盛り上がるまもなく解散が決まってしまったスマッシング・パンプキンズの、個人的には最初で最後の来日公演。
 場所は日本武道館、席はステージ向かって右手の二階席。先行予約で取ったというのになぜ二階だと憤慨していたのだけれど、行ってみたらなかなか見晴らしの良い席で、なるほどという感じだった。
 今回のコンサートでは珍しく前座などがある。ビリー・コーガン自らの希望だそうで、ちょっと前に出演バンドを一般公募していた。
 選ばれてこの日のステージに立ったのは、女性ボーカルをフィーチャーしたフィードという3ピース・バンドだった。印象としては覇気のないクランベリーズとでもいうか。ボーカルの子がドラをたたいてみたりする演出の面でも、日本人のくせして「ウィー・アー・フィード」やら「サンキュー、サンキュー」やら言っている観客に対する姿勢の面でも、あまり僕の好きなタイプのバンドではなかった(活動拠点はNYらしいけれど)。
 さいわいなことに、この前座バンドは3曲を演奏してすぐに引っ込んだ。その後、器材の入れ替えがあって、所定の開演時間から30分が経過して、ようやくスマッシング・パンプキンズが登場する。
 オープニング・ナンバーは "Age Of Innocence"。ニューアルバムのエンディングを飾るこの曲から、この日のライブはスタートした。
 アルバムを聴いた時にも感じていたことだけれど、ジミー・チェンバレンのドラムには独特の感覚がある。早いドラムロールを多用するためなんだろうか。どこがどうとうまく言葉にできないのだけれど、この人ならではの個性がある。ライブの最初のこの曲から、そのことを再確認した。
 それと反対にベースは弱かった。今回のツアーからバンドに参加した元ホールのメリッサという女性のベースは、僕にはほとんど聞き取れないくらいの印象だった。全体的にハードなバンドの音の陰に隠れてしまっていた。
 加えてこの人はステージアクションが派手で、コーガンとイハの動きが少ない分、妙にバンド全体から浮いている感じがした。彼女を目にするたびに僕は、ダーシーがいた時のスマパンを生で観なかったことを、のちのちまで後悔することになるかもしれないと思った。
 とにかく、このデコボコなリズム・セクションに支えられて、スキンヘッドにナチス将校みたいな黒服のコーガンと、赤いスーツに身を包んだイハがラウドなギターを奏でる。やや分離は悪かったけれど、十分ダイナミズムに富んだ音だった。
 コーガンのボーカルは思っていたより通りが悪かった。それでもシャウトする時の声量はなかなかすごい。あちらこちらでわけもなく「ウォー」と叫んでいたのが、おとなしそうなイメージと違っていておかしかった。
 そういえば、そんなシャウトとともに、部分部分でくどいくらい演奏を引き伸ばす姿勢に、ややオールドファッションな資質が見え隠れしていたような気がする。後半に取り上げたデヴィッド・エセックス(誰?)とトーキング・ヘッズのカバーなど、もろにそんな感じだった。
 二曲目以降も "Glass And The Ghost Children"、"The Everlasting Gaze"、"Heavy Metal Machine" と、新作のコアとなる楽曲が続く。特に "Everlasting Gaze" での中間部のアカペラ部分は大層な盛り上がりだった。
 このあと、イハがボーカルを取る "Blew Away" を一曲だけ挟み、新作からのシングル "Stand Inside Your Love"、そして多分バンドの人気ナンバーワン・ソングだと思われる "Cherub Rock" と続く。この曲のドライブ感はやはり素晴らしかった。
 "I of the Mourning" の後はアコースティック・セットで "To Sheila"、"This Time"。これにドラムとベースが加わり、チェンバレンがステージ中央でミニセットのドラムを叩く "Ave Adore"、"Try, Try, Try"。 "Ave Adore" にはもっとハードな音を期待していたので、ちょっと残念だった。
 再びフルセットに戻ってカバーの "Rock On"、一番期待していたのにイントロのベースが聞こえず盛り上がれなくて残念だったのが "Bullet With Butterfly Wings"。この曲はそのままトーキング・ヘッズのカバー、"Once In A Life" へと雪崩れ込んだ。
 あらかじめインターネットでツアーのセットリストを確認していた僕はこれでおしまいだろうと予想していたのだけれど、ところがこの後もステージは続く。
 "Blue Skies Bring Tears" はアルバムとはかなりアレンジが変わっていて、最初それとわからなかった。ワンコーラス毎にリズムが早くなり、非常にドラマティックな印象のナンバーになっていた。
 とはいえ、これがなかなか重くて地味な曲なので──しかもその前もカバーナンバーで、大半のオーディエンスには馴染みがなかったこともあったのだろう──、この曲の終わる頃になると、僕のまわりの人たちは、大半が腰を下ろしてしまっていた。おいおい、こんなんで終わってしまうのかと結構慌てたのだけれど、そこはさすがに考えている。本編のラストには "Today" と "Fuck You" という素敵な選曲が用意されていた。
 アンコール一発目は "Blank Page"。カラオケでコーガンが歌いながら登場し、途中からメンバーが加わってゆく。さらには感動的な "Mayonaise" が披露される。これで僕はもう十分だったのだけれど、再度のアンコールに応えて、"1979" が演奏され、アットホームな雰囲気の中でこの日のコンサートは幕となった。
 とても良いコンサートだったと思う。ただし、ぜひもう一度見なくてはと思わされるまでではなかった。なのでこの日のライブを見てから行くかどうかを決めるつもりだった翌々日の国際フォーラムは諦めた。後日、セットリストを見てみたら、その日は開演時間が早かったためか、本編は二部構成、セットリストはさらに豪華になっていて、ちょっぴり残念な思いをしたのだけれど。
(Jul 4, 2000)

エレファントカシマシ

超激烈 ROCK TOUR/2000年7月1日/日比谷野外大音楽堂

good morning

 恒例、夏の野音──恒例、初秋の野音だった頃がちょっと懐かしい。梅雨時ということで雨を心配していたのだけれど、週間予報では雨だった天気も直前になって持ち直し、当日は曇りがちながら真夏日、大変な暑さの中でのコンサートとなった。
 野音といえばいつでも気合いの入ったパフォーマンスを見せてくれるのが常だし、今年は再出発を力強く宣言するような傑作 『good morning』 発表後ということもあって、とても期待していた。ところがなぜか、今回は思いのほか力の抜けた内容で、悪くはなかったものの、ちょっと拍子抜けすることになった。
 本編の選曲と曲順はほぼ前回のリキッドルームと一緒だった。あの日、宮本の気まぐれで演奏された 『孤独な旅人』 が抜けていたのと、 『情熱の揺れるまなざし』 が演奏された点だけが違っていたくらいだ。 『情熱の~』 は好きな曲だったから嬉しかった。
 リキッドでは異常なテンションの高さで観客を圧倒した 『good morning』 も、この日は前回よりステージまでの距離があったせいか、随分とあたりさわりなく聞こえた。 『コール アンド レスポンス』 の前振りのMCでは、そごうの再建問題について長々と話しまくり、観客の失笑を買っていた。
 「渋めの選曲でお送りします」と紹介された1度目のアンコールは、『さらば青春』 『遠い浜辺』 『昔の侍』 『スイートメモリー』 という、ここ数年のシングルのカップリングを中心とした渋めの内容だった。どれもこの時期の曲としては、比較的好きな曲ばかりだったので、結構嬉しかった。
 『昔の侍』 はアレンジがいまいち。打ち込みとバンド(特にギター)の音がバラバラだ。以前、武道館でストリングスをフィーチャーした時にもそう思ったものだけれど、どうにもこの曲には満足がいかない。もっとシンプルにやればいいのにと思う。とてもきれいな曲だけにもったいない。
 初めて生で聴いた 『スイートメモリー』 は、ライブで映えそうだと思っていた通りで、やはり大変盛り上がった。詞とタイトルには若干抵抗を感じるものの、この曲の乗りの良さはエレカシの今の姿勢の正しさを証明していると僕は思う。
 2度目のアンコールは 『I am happy』 『soul rescue』 『ガストロンジャー』 で怒涛の攻勢をかける。 『ガストロンジャー』 では、過激にも「森、おめえだよ」とか叫んでいた。ただ、この曲では音がややラウド過ぎた嫌いがあり、特に後半はなにがなんだかよくわからなくなってしまっていた。
 前回のリキッドよりも宮本が落ち着いていたためか、全体的に見て大変リラックスした印象の2時間弱だった。なんだか珍しく不満が少ない、かといって感動しまくりというのでもない、どっちつかずのライブだった。
 原因はやはり、ほとんど前回と同じ曲順のセットリストだと思う。次の曲がある程度見当ついてしまうのでは、興醒めする部分があるのは仕方ない。だからこの日のライブで一番楽しかったのは、予想外の楽曲が並んだ1度目のアンコールだった。
 スマッシング・パンプキンズの今回のツアーのセットリストを見ると、選曲自体はある程度固定的であっても、曲順をほぼ毎日変えている。少しはそういう姿勢を見習ってもらいたいと思う。そういうサービス精神さえ持てば、今のエレカシは最強だ。
(Jul 4, 2000)

ストリート・スライダーズ

LAST LIVE/2000年10月29日/日本武道館

ラストライブ

 これで本当に最後なんだろうか──。
 そう疑問に思ってしまうほど肩の力の抜けた自然体のライブだった。17年の歴史に幕を閉じる、そんな気負いはまるでなかった。こちらが拍子抜けするほどに。
 でもそんな姿勢こそが、まぎれもなくスライダーズの持ち味だった。
 4時20分を過ぎて 『Angel Duster』 で始まり、7時ちょっと前に 『のら犬にさえなれない』 で終わった約2時間半のコンサート。特に懐かしい曲を並べるわけでもない。新旧取り混ぜたバランスの良い選曲だった。異様に早い開演時間も、遠方からのオーディエンスへの配慮だとのことで、こちらが勝手に期待していたような、5時間、6時間もかけて有終の美を飾ろうなんてものではなかった。あくまでスライダーズはスライダーズだった。やはり「いつだってどこだって同じ」だということなのだろう。
 最新型となって、よりダンサブルにアップデートされた 『Tokyo Junk』 のアレンジ、実質的なラスト・アルバムとなった 『No Big Deal』 からの曲、未発表の新曲などが堂々と演奏されたことでも明らかなように、とにかく懐古主義的なところの微塵もないコンサートだった。今のスライダーズはこういうバンドだと、現在進行形で終わるんだという強い意志を感じさせてくれた。なによりそうした姿勢が素晴らしかった。
 ハリーの明るい立ち振る舞いを見る限り、今後の彼個人の活動にも期待が持てそうな気がした。
(Oct 31, 2000)