2007年のコンサート

Index

  1. エレファントカシマシ @ Zepp Tokyo (Jan 7, 2007)
  2. ブロック・パーティー @ Studio Coast (Mar 04, 2007)
  3. エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (May 26, 2007)
  4. ザ・キュアー @ Fuji Rock Festival '07 (Jul 27, 2007)
  5. エレファントカシマシ @ SHIBUYA-AX (Sep 29, 2007)
  6. ラッキー・ソウル @ 原宿アストロホール (Dec 11, 2007)

エレファントカシマシ

2007年1月7日(日)/Zepp Tokyo

町を見下ろす丘

 エレカシが正月にライブをやるのも半恒例のようになっているけれど、野音のように毎年欠かさずやっているわけじゃないし、今年はカウントダウン・ジャパンへの出演で元日にすでにステージに立っている。もしかしたらこの日のライブはモチベーションがあがらず、いまひとつに終わったりしないかなとちょっと心配していた(なにせ波のあるバンドなので)。でもそんなのはつまらない杞憂だった。新年早々なかなかいいコンサートを見せてもらえた。疑ってごめんなさい。
 去年一年間の活動で一番強く印象づけられているのは、石くんのギタリストとしての覚醒だった。十数年にわたって宮本の轟音ギターの影にかくれっぱなしだった彼だけれど、このニ、三年でようやくギタリストとして目を覚まし、本来バンドのなかで果たすべき役割を担えるようになったようだ。四十にして惑わずというとおり、この日のプレーからは、まさに不惑という年齢にふさわしい自信が感じられた。
 宮本もそんな石くんの成長を全面的に支援しているように見える。その証拠に、去年僕らが見たエレカシのコンサートでは、宮本はほとんどギターを手にしなかった。
 かつてのエレカシは確実に彼の轟音ギターを生命線としていた。デビュー当時はいざ知らず、少なくても僕がエレカシのライブに足を運ぶようになった時点──『生活』リリース直後の野音──では、すでにエレカシのギターサウンドの中心には宮本がいた。『浮世の夢』以降、急速に複雑化した宮本の表現力に、シンプルなロックン・ロール・スタイル一本やりの石くんがついていけていない印象だった。そして困ったことに、そんな状態が十年以上続いていた。
 それが最近になってようやく変わった。気がつけば、いまや新旧とりまぜた様々な楽曲の大半を、宮本のギターなしできちんと聞かせられるようになっている。それはまちがいなく石くんのギタリストとしての技量があがったからだ。最近なにかのインタビューで宮本が「うちには石くんという素晴らしいギタリストもいることですし」みたいな発言をしているのを目にしたことがあって、その時にはメンバーに対するリップサービスかと思ったものだったけれど、いまのエレカシを見ていると、あれはある部分まで本気だったのがわかる。いまのエレカシは石くんのギター一本でも戦えるだけの力があるのだから。
 この日の正月公演では、その状態からさらに一歩、前へ進もうとしている姿勢が鮮明だった。なぜって宮本が大半の楽曲でギターを弾いていたからだ。

【セットリスト】
  1. 今宵の月のように
  2. 悲しみの果て
  3. 明日に向かって走れ
  4. 孤独な旅人
  5. 風に吹かれて
  6. 珍奇男
  7. デーデ
  8. 誰かのささやき
  9. 甘い夢さえ
  10. 星の降るような夜に
  11. I don't know たゆまずに
  12. シグナル
  13. 地元のダンナ
    [Encore 1]
  14. 四月の風
  15. 未来の生命体

  16. 今をかきならせ
  17. なぜだか、俺は祈ってゐた。
  18. 花男
    [Encore 2]
  19. so many people
  20. ガストロンジャー
  21. 俺たちの明日[新曲]

 そう書いただけだと、以前の状態に戻ったようで、まるで後退しているようだけれど、けっしてそうじゃない。この日のライブでは宮本が終始ギターを弾いていたにもかかわらず、石くんのギターはその影に隠れていなかった。それどころか彼のギターが宮本のそれより大音量で鳴っていた。そんなエレカシを観るのは、少なくても僕は初めてだった。
 かつては宮本がギターを弾いているあいだ、石くんはまるでサイド・ギタリストのようだった。彼のギターの音量は確実に宮本のそれよりも小さかった。ひどい時には、弾いてるんだか、弾いていないんだかわからないようなこともあった。そんな彼のプレーに僕はつねにもの足りなさをおぼえていた。
 その石くんがここへ来てようやくギタリストとして見違えるようなプレーを見せてくれるようになった。宮本もそんな彼の成長を祝福するように、去年はあえてギターを鳴らさなかった。そして今年、新年一発目の単独ライブで宮本はふたたびギターを手にした。
 けれど彼がギターを鳴らしていても、いまでは石くんがその影にかくれてしまうことがない。二人のギターがしっかりとアンサンブルを奏でている。そのことが僕はとても嬉しかった。だから『今宵の月のように』で、いつになく落ち着いた雰囲気で始まり、その後も延々と(あまり好きではない)ポニーキャニオン時代の楽曲ばかりが演奏された序盤であっても、それほどの失望を味わわなくてすんだ。逆に最初のうちにそれらの曲が演奏されてしまったことで、後半のセットリストが僕にとってはとても好ましいものになった部分もあった(結果オーライ)。ちなみにこの日のベスト・パフォーマンスは本編ラストの『地元のダンナ』。素晴らしく迫力のある演奏だった。
 とにかくここへきてようやく──宮本がギターを弾いていなかったデビュー当時を除けばはじめて──、石くんをためらうことなくエレカシの“リード・ギタリスト”と呼べるようになったことが僕は本当に嬉しい。若干、本当に信じていいのかという一抹の不安もあることはあるけれど、それでも嬉しい。この日の石くんは『未来の生命体』では初めてアコギを弾いてみせたりもしていたし(これまで宮本が弾くことはあっても石くんが弾くのは見たことがなかった)、新しいチャレンジを怠らない姿勢やよし。ギタリスト石森敏行には、これからもガンガンと成長し続けていって欲しいと思う。それでなくても遅咲きなんだから。
 アンコールの最後に宮本がいつものパイプ椅子の背もたれに腰掛けて、楽譜スタンドを前に演奏したのは、前向きにがんばろうという明快なメッセージを持った楽しげな新曲『俺たちの明日』だった。なんとなく『東京の空』の頃を思い出させる雰囲気のある、きどらない友だち応援ソングだ。
 音楽のスタイルこそさまざまな変動を遂げているけれど、宮本のメッセージ自体はデビュー以来、なんら変わらない。「お前の力、必要さ」と歌ったデビューの時からこの新曲にいたるまで、彼はいつでもリスナーや仲間たちに一緒に戦おうと訴え続けてきた。いままではそんな彼のメッセージに、肝心のバンドのメンバーが十分に答えていない感じがしたものだ。けれど石くんの変身により、そんな違和感も解消された。これで準備は万全。エレカシの本当の時代はこれから始まるのだろう。たぶん。
(Jan 13, 2007)

ブロック・パーティー

2007年3月4日(日)/Studio Coast

Weekend in the City

 セカンド・アルバムのリリースにあわせて来日したブロック・パーティーを、新木場のスタジオ・コーストまで観に行ってきた。
 こういうキャリアの浅いバンドのライブに足を運ぶのは、本当にひさしぶりだ。最後に観た新人バンドはなにかと問われても答えが出てこないから、おそらく十年ぶりとかいう感じなんじゃないかと思う。CDで聴いていいなと思ったバンドでも、新人だとライブは敬遠してしまうのがほとんどにになっている。そういう意味では、やはり随分と感性が老化しているのかもしれない。
 実際にこの日のライブでは、自分の年齢をそれなりに意識させられることになった。いや、まわりが若くてやたらと元気なんだ。みんな荷物や上着はコインロッカーに預けて準備万端だし、コート着たままの僕は、完全におじさん。
 おまけにこの日はオープニグ・アクトがある。前回初めてこのライブハウスに来たときは、前座があると思って時間をずらして行ったら、そんなものはなくて、プロディジーを大半見逃すはめになったわけだけれど、今回はまったくその反対。前座があることを知らないで行ったら、いきなり定時に客電が落ちて、知らないバンドが登場した。
 オープニング・アクトをつとめたのは、ノイゼッツという、黒人女性がベース&ボーカルをつとめる混成スリーピース・バンド。パフォーマンスに華があって、前座として見たバンドのなかでは、過去最高の内容だったと思う。
 とはいっても、如何{いかん}せん、こちらはひとりで来ている体力のない中年男。30分たらずの彼女たちの演奏のおかげで、ブロック・パーティーが登場するまで、1時間も待たされることになったのは、正直、とてもきつかった。前座の演奏があるうちはまだしも、終わってから30分以上、見知らぬ若者たちのなか、ひとりぽっちでぼけっと立ちっぱなしですからね。居心地悪いこと、このうえない。おかげで本編が始まる頃には、かなりめげていた。
 それでも、お目当てのブロック・パーティーの演奏は、やはり見ておいてよかったと思わせてくれる、素晴らしいものだった。

【セットリスト】
  1. Song for Clay (Disappear Here)
  2. Positive Tension
  3. Blue Light
  4. Hunting For Witches
  5. Waiting For The 7.18
  6. The Prayer
  7. I Still Remember
  8. This Modern Love
  9. Like Eating Glass
  10. Uniform
  11. So Here We Are
  12. Banquet
    [Encore]
  13. Sunday
  14. She's Hearing Voices
  15. Little Thoughts
  16. Helicopter

 このバンド、その正統的なUKオルタナティブなサウンドに反して、バンドとしての{たたず}まいには、なかなか変わったところがある。フロントマンのケリー・オケレケが黒人なのは知っていたけれど、なんとドラマーもアジア系なのだった(多分そうだと思う。未確認)。名前はマット・トンという。写真やPVをきちんと見たことのなかった僕は、今回、生で見るまでそのことをまったく知らなかった。
 で、このマットくんがすごいんだ。黒髪のストレートヘアにメガネという、まるでサラリーマンか、いじめられっ子みたいなルックスで(失礼)、見ためは見事にロックにそぐわない。そのくせ、この日は上半身裸だったりする。特別マッチョなわけでもない上に、ルックスが地味なものだから、その裸には「まちがってなにも着ないで出てきちゃいました」みたいな違和感があった。けれど性格的には決して地味ではないらしく、さかんに立ち上がってはスティックを振りあげ、オーディエンスをあおったりする。汗をかくと、タオルを取り出して、恥かしげもなく、両方のわきの下をごしごしやっているし。なんだかとても不思議な青年だった。
 でも、そんな彼だけれど、ことドラムに関しては、とびっきり上等だ。もとより、僕がひさしぶりにこういう若い人たちのバンドを生で見たいと思ったのは、アルバムで聴いた彼のドラムに負うところが大きかった(そのくせ名前も知らないんじゃ、話にならないけれど)。音楽を聴いていて、ドラムが格好いいと思ったのなんて、ストーン・ローゼズのレニ以来だ。これは実際にどれくらいすごいのか、生で確認しないといけないと思わされたのだった。
 で、実際に生で見てみて、やはり感銘を受けることになる。レニのように普通に8ビートをたたいているだけでも、なぜだかグルーヴが生まれてしまう、みたいなマジカルなプレーではないけれど、もっと手数を多くかけて、タムをゴロゴロとロールさせることで、力強いドライブを生み出してゆく、という感じだろうか。内側からビートが{はじ}け出てくるようなプレーで、非常に気持ちいい。彼のビートに乗ったバンドのサウンドには、芯に一本、太い線が通っているような印象を受けた。ほとんどがアップなナンバーばかりだし、それをああいう勢いのある演奏で聴かされるんだから、客席の盛りあがりも、はんぱじゃなかった。
 彼以外のメンバーも個性的だ。ギターボーカルのケリー・オレケレは、そのクールなサウンドから予想しなかったほど、終始にこやかなナイスガイだった。レコードではあまり黒人っぽい印象を受けなかったけれど、生で聞くとその声質にある粘り気のようなものに、黒っぽさがちょっとだけ感じられた。
 ギターのラッセル・リサックは、他の二人にコーラスを任せて、自分はたたひたすらギターに専念するというタイプの、典型的なUKのギタリスト。目が隠れるほど前髪を伸ばしたシャイそうなルックスには、僕の好きなバーナード・バトラーやジョン・スクワイアに通じる雰囲気がある。ただ、演奏的には彼らのようにリズムでグルーヴに加味するというよりは、どちらかというと多彩な音で空間を埋めるようなプレーが持ち味のようだった。
 ベーシストのゴードン・モークスは、あとの三人にくらべると、普通の人っぽい。でも単にベースを弾くだけではなく、ちゃんとコーラスワークでも貢献していたし、アンコールの "Sunday" では、マット・トンと一緒にツインドラムをたたいてみせたりと、一筋縄ではいかないところを見せていた。まあ、コーラスについては、マットくんともども、それほど上手いって感じではなかったけれども。
 この日のセットリストは、二枚のアルバムの楽曲をバランスよくとりまぜたもの。ファーストとセカンドでは、楽曲の雰囲気や音の傾向がそれなりに異なっているように感じられたものだけれど、ライブだと、どの曲も違和感なく、それぞれの場所におさまっていた。セカンドでは、かなりシンセなども導入していると思っていたので、サポート・ミュージシャンなしというのも意外だった。でも、四人だけであれだけ鳴らせられれば、キーボードは不要だろう。
 とにかくメンバーそれぞれのプレイヤビリティの高さと、そのコンビネーションが絶妙なバンドだった。1時間半にも満たない演奏時間は、普段ならものたりないところだけれど──なんでUKのバンドはいつもそうなんだろう──、この日は前に書いたように、始まる前から疲れてしまっていたので、かえってちょうどよかった。いや、満足、満足。
 最後にケリー・オケレケが、「サマーソニックで会おう」と言い残して去っていったから、もしかしたらこのバンドは、年内にもう一度、見ることになるかもしれない。
(Mar 10, 2007)

(※)結局、キュアーの来日が決まって、フジロックに行ってしまったため、資金難により今年もサマーソニックは見送り。いい歳して貧乏で情けない。

エレファントカシマシ

日比谷野外音楽堂2007“俺たちの明日”/2007年5月26日(土)/日比谷野外大音楽堂

生活

 なぜだか例年より2ヶ月も前倒しで開催された毎年恒例のエレカシ野音公演。
 エレカシも今年でデビュー20周年なのだそうだ。ファースト・アルバムは88年のリリースだから、普通に数えると20周年は来年のような気がするけれど、どうやらこういう何周年という場合は、デビューした年からの数えになるらしい。2週間前に行われた大阪城野外音楽堂での公演は「デビュー20周年記念特別公演」と銘打たれていたから、わざわざ前倒ししてこの時期にやったことにもなんらかの意味があったのだろう。
 なにはともあれ、20年──アマチュア時代から数えれば20数年──も同じメンバーでコンスタントに活動を続けているのだから、たいしたものだ。20年前と言えば、宮本も僕もまだ大学生。それがいまや不惑なんてことになっている。僕自身はあまりに成長の跡がなくていやになってしまうけれど、エレカシはその間に、浮いたり沈んだり、紆余曲折を経ながら、20枚を超えるアルバムを世に送り出してきた。それだけでもすごいことだ。僕はこういうバンドと出逢えて、ともに年を重ねてこれたことを、しみじみと幸せだなと思っている。
 なにはともあれ、五月の終わりという、そろそろ梅雨入りかという時期に行われた今年の野音。一週間前の週間天気予報では、曇りときどき雨ということで天候が心配されたのだけれど、あけてみれば、予想された雨は前日で降りつくした形となり、当日は見事な快晴だった。日もすっかり長くなり、午後5時半という早めの開演時刻には、まだまだ夕暮れの気配もない。青空の下、定刻を過ぎてしばらくすると、BGMにかかっていた70年代のソウル・ミュージックが鳴りやみ、メンバー四人がいつものように、だらだらと登場した。そうして石くんのギターのイントロとともに始まった一曲目が 『夢のちまた』 。
 いやー、これはよかった。季節は春の終わりで、場所は日比谷の野音。このオープニング・ナンバーはまさにうってつけだ。2曲目は新曲の 『俺たちの明日』 で、本来はこの日のライブのタイトルにもなっているこの曲のほうが一曲目にはふさわしかったんだろうけれど、そこをあえて 『夢のちまた』 で始めてくれたことに、僕としてはとてもしびれた。
 3曲目の 『四月の風』 からは、蔦谷好位置{つたやこういち}という十歳年下の青年が、キーボードで登場。おそらく3曲目からだと思うけれど、なんでもこの人は新曲のプロデュースを担当しているらしいので、もしかしたら僕が気がつかなかっただけで、2曲目から登場していたのかもしれない。その後はほぼ全編でキーボードを弾いていた。
 この日の選曲で 『夢のちまた』 と並んで嬉しかったのが、4曲目の 『偶成』。この曲をライブで聴かせてもらったのは、いったい、いつ以来だろう。確実に聴いたと言いきるには、初めてエレカシを生で観た、90年の野音までさかのぼらなくちゃならない気がする。同じ 『生活』 に収められている 『遁生』 は、しばらく前から、ときたま演奏されるようになったけれど、僕が勝手にその曲の姉妹編ともいうべき存在だと思っている 『偶成』 は、これまで、まったくといっていいほど演奏されなかった。個人的にはエレカシでもっとも好きな曲のうちのひとつだから──まあエレカシの場合、好きな曲が多すぎるくらいあるんだけれど──、今回、思いがけずこの曲を聞かせてもらえたのは、なんともいえず嬉しかった。
 ちなみにこの曲をリリースした頃の宮本は、ギターを弾くときにはパイプ椅子に座っているのがあたり前だったから、彼がこの歌を立ったまま歌うのを観るのは、これが初めてだった。 『偶成』 を立ったまま歌う宮本──これまた月日の流れを感じさせ、ある種の感慨をさそう風景だった。

【セットリスト】
  1. 「序曲」夢のちまた
  2. 俺たちの明日
  3. 四月の風
  4. 偶成
  5. 奴隷天国
  6. 悲しみの果て
  7. 上野の山
  8. てって
  9. DJ in my life
  10. 愛の日々
  11. 翳りゆく部屋 [荒井由実カバー]
  12. 風に吹かれて
  13. あなたのやさしさをオレは何に例えよう
  14. 新曲 [笑顔の未来へ]
  15. I don't know たゆまずに
  16. 生命賛歌
  17. 今宵の月のように
    [Encore 1]
  18. ガストロンジャー
  19. ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ
  20. 月の夜
  21. so many people
  22. 星の降るような夜に
    [Encore 2]
  23. 武蔵野
  24. なぜだか、俺は祈ってゐた
  25. 俺たちの明日

 この日はこの名曲がセレクトされたこと以外にも、小さなサプライズがあちらこちらにあった。 『奴隷天国』 のイントロを宮本が弾いたり──この曲で宮本がギターを持っているのを見たこと自体、初めてじゃないだろうか──、 『四月の風』 で石くんがアコギを弾いていたり、 『風に吹かれて』 が終盤までキーボードだけのアレンジで演奏されたり。
 なかでもとびりきのサプライズは、ユーミンの 『翳りゆく部屋』 をカバーしてみせたことだった。宮本が「ユーミンの曲をやります」というので、おいおいマジかよ、いったいなにをやるんだ、おれが知っているユーミンの曲でエレカシと組み合わせてぴんとくるのは 『翳りゆく部屋』 くらいだぞと思ったら、まさにそのとおりだので、ついつい破顔してしまった。
 椎名林檎もユーミンのトリビュート盤でカバーしていたこの歌は、「輝きは戻らない/わたしがいま死んでも」という刹那な歌詞が、まさに彼らにぴったりだと思う。ただ、やはり女性の曲だけあって、それに先行する「どんな運命が愛を遠ざけたの」という女性言葉の歌詞が、残念ながら宮本のボーカルにはいまひとつマッチしていない気がした。そもそも、これに関しては、先行する林檎さんのカバーが素晴らしすぎる。あれを聴いたあとでは、オリジナルさえきっと色褪せてしまうだろう。そういう意味では、最初からエレカシには分が悪かった。
 この日はそのほかに 『涙のテロリスト』 改め 『笑顔の未来へ』 というタイトルの新曲も演奏された。『DJ in my life』 や 『愛の日々』 など、ひさしぶりで意外性のある選曲も多かった。非常に新旧のバランスのとれた、いいセットリストだったので、途中から、これはもしかしたら、意図的にこれまでの全アルバムから一曲ずつ演奏しようと思っているんじゃないだろうかと思うようになり、その予想はアンコールで 『ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ』 が演奏されたことで確信に近くなった。ここしばらく出番のなかった失敗作(失礼) 『愛と夢』 の曲まで引っぱり出すくらいだから、こりゃもう間違いなく全作品からやるだろうよと。
 でも、僕のそんな予想はとんだ期待はずれに終わる。結局、セカンドと5枚目と 『扉』 の曲は演奏されないまま終わってしまった。いやあ、あと3曲で完全制覇だっただけに、なんとも惜しい。なんだかノーヒットノーランを見損なったような気分だ。ああ、願わくばあと、『待つ男』 と 『過ぎゆく日々』 と 『化ケモノ青年』 をやってくれさえすれば……。
 そんな僕のささやかな期待を打ち砕いた今年の野音のラスト・ナンバーは、なんとこの日2度目の演奏となる新曲 『俺たちの明日』 だった。一週間前に着うた限定でリリースされたばかりの新曲ということもあって、オーディエンスの耳に馴染んでないせいか、最初に演奏されたときには、いまひとつ盛りあがりを欠いたこの曲も、二度目のこの時には──最初のときよりアコギの弾き語りパートが短めで、さっさとバンド・サウンドになったためもあって──、おおいに盛りあがった。この日のとりを飾るにふさわしい演奏だったと思う。こんな風に同じ曲を二度もやられちゃ、これ以上アンコールは求められないなという感じだった。
 まあ、そんなわけで、デビュー20年目の野音は 『俺たちの明日』 でもって終わった。前向きに「さあ、がんばろうぜ」と歌い切ってステージを去っていった宮本のうしろ姿は、とてもすがすがしかった。
(Jun 02, 2007)

ザ・キュアー

FUJI ROCK FESTIVAL '07/2007年7月27日(金)/苗場スキー場

Festival 2005 [DVD] [Import]

 ついに念願叶って、キュアーを観ることができた。
 92年の 『Wish』 の頃のインタビューだったと思うけれど、日本にも来てくれるのかと訊ねられたロバート・スミスが、「日本に行くと変な気分になっちゃうんだよね」とかいうような発言をして、回答を避けていたのを読んだおぼえがある。なにがどう変なんだかわからないけれど、23年前の来日のあとに、 『Kyoto Song』 なんてタイトルで悪夢にまつわる歌を書いたくらいだから、彼にとっての来日はそれなりにインパクトがある体験だったんだろう。おそらく悪いほうに。
 とにかく、その時の来日体験がどれほどイメージの悪いものだったのか知らないけれど、僕がキュアーを聴くようになって以来、ロバート・スミスは一度も来日してくれなかった。
 奇しくも前回来日した84年というのは、僕がサザンオールスターズでライブ初体験を果たした年だった。その頃の僕は、キュアーなんてバンドは、名前さえ聞いたことがなかった。
 あれから23年。その間に僕はキュアーを知り、いつしかその魅力に魅せられた。でもキュアーが日本へやってくることはなかった。ツアーがまったくなかったならばともかく、ヨーロッパやアメリカはそれなりに回っている。こうなるとほんとに嫌われているとしか思えない。あんまり長いこと来てくれなかったので、いい加減僕は、もしかしたらこのまま一生キュアーを観ることできずに終わるんじゃないかと思い始めていた。
 だから来日が正式に決まってからも、しばらくは半信半疑だった。ドタキャンするんじゃないかとか、台風で観られなくなるんじゃないかとか。フジロックなんて、これまでに一度も行ったことのない遠方のフェスティバルへの出演ということもあって、もしや僕はなんらかのトラブルに見舞われて、会場にたどり着けさえしないんじゃないかなんて心配までした。
 でも、そんな馬鹿な心配も杞憂に終わり、僕は無事、苗場スキー場にたどり着いた。そしてロバート・スミスも──定刻より25分ばかり押してはいたけれど──、無事、フジロックのグリーン・ステージに姿をあらわしたのだった。当日は嫌になるくらいの快晴で、雨の心配はまるでなかった。山裾{やますそ}には綺麗な月が昇っていた。

【セットリスト】
  1. Open
  2. Fascination Street
  3. From The Edge Of The Deep Green Sea
  4. Kyoto Song
  5. Hot Hot Hot!!!
  6. alt.end
  7. The Walk
  8. The End Of The World
  9. Love Song
  10. Picture Of You
  11. Lulaby
  12. Inbetween Days
  13. Friday I'm In Love
  14. Just Like Heaven
  15. If Only Tonight We Could Sleep
  16. The Kiss
  17. Shake Dog Shake
  18. Never Enough
  19. Wrong Number
  20. One Hundred Years
  21. End
    [Encore 1]
  22. Let's Go To Bed
  23. Close To Me
  24. Why Can't I Be You?
    [Encore 2]
  25. A Forest
  26. Boys Don't Cry

 ロバート・スミスは 『Festival 2005』 で見られる姿より、さらにちょっぴり太って見えた。それでも、スカートみたいな腰巻のついた真っ黒な服を着て──胸に白いネーム入り──、真っ黒なアイシャドウを引いて、真っ赤な口紅をさしたその姿は、まさに彼のイメージどおりだった。ベースのサイモン・ギャラップは、 『Festival 2005』 の時よりもちょっと髪が長めで、昔のイメージに近いかなと。ポール・トンプソンは髪の薄さに開き直ったのか、ちょっと驚きのスキン・ヘッドだった。ドラムのジェイソン・クーパーは──この人も気がつけばもう12年もキュアーにいる──、失礼ながらドラムセットのかげに隠れていたせいか、まったく見た記憶がない。
 ステージは、『Open』 で始まって 『End』 で終わるという、キュアーにとって定番ともいうべき構成だった。考えてみれば、この形が定着したのは、その2曲が収録された92年のアルバム 『Wish』 以来だから、キュアーはかれこれ15年もおなじパターンのステージを繰り返していることになる。ほかのバンドだったらば、芸がないなあとか言いたくなりそうなところだけれど、ことキュアーに関してはこれでオッケー。僕はぜひこの形のステージが観たかった。一部の選曲を除けば、予定調和的とさえ言えるほど、思っていたまんまのステージだったけれど、それゆえに僕はこのライブが観られたことが心から嬉しかった。
 この日のステージは、あきらかに23年ぶりの来日であることに配慮されていた。選択された楽曲は、これでもかという代表曲ばかり。それも予定されていた90分にはとうてい収まりきらない豪華な選曲だった。公式ブログでは「消灯時間があるので90分しかやりません」とか書いていたくせに、いやはや、やる、やる。最初から90分で終わらせるつもりなんてなかったんじゃん、というサービスぶり。こんなところで過去に何度となく解散をほのめかしたロバート・スミスの狼少年ぶりを再確認させられるとは思わなかった。ほんと、いつまでたっても終わらない。ようやく 『End』 が演奏され、本編が終わったのは、あと15分で日にちも替わろうって時刻だった。
 で、さすがに時間も時間だし、あとは 『A Forest』 を一曲やって終わりだろうと思ったこちらの予想に反し、アンコールに出てきたロバート・スミスは、ギターを持っていない。ハンドマイクで歌い出したのは 『Let's Go to Bed』 だよ、おいおい。しかも続けて 『Close to Me』 に 『Why Can't I Be You』 と、ギターを持つことなく、シングルヒット3連発を聞かせて、引っ込んじゃった。これで終わりはあり得ない。わははは、まだやるらしい。嬉しくて大笑い。
 二度目のアンコールで、ようやく 『A Forest』 のイントロが鳴り響いた時には、すでに日が替わっていた。森に囲まれた苗場の野外ステージで、午前0時過ぎに 『フォレスト』 を聴こうとは……。出来すぎでしょう、これはちょっと。

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 結局、オーラスの 『Boys Don't Cry』 まで、2時間半弱。開演が遅れて待っていた時間も含めるならば、3時間近いコンサートだった。最初にフジロックへの出演が決まったときには、単独公演でないことを恨めしく思ったものだけれど、これだけ見せてもらえれば100%満足。逆にフジロックにキュアーを招聘してくれたスマッシュさんに感謝したいくらいだ。
 いやでも、結局演奏時間の長短はどうでもよかったのだと思う。僕は最初の30分で、もう充分に満足しきっていた。とにかく僕はキュアーが観られれば、ただそれだけでよかった。どんな曲が演奏されようと、わずか1時間で終わろうと、まず確実に満足したと思う。選曲も演奏時間の長さも関係なく、ただひたすらキュアーが観られればそれでよかった。
 だから、もっともポップな 『Inbetween Days』 『Friday I'm In Love』 『Just Like Heaven』 の三連発でモッシュピットが興奮の坩堝{るつぼ}と化したあと、そんな盛りあがりの熱を冷ますように、暗くて地味な 『If Only Tonight We Could Sleep』 が演奏されても、僕としてはなんの文句もなかった。その曲を演奏してくれたことが嬉しかった。この日に演奏されたすべてが僕の好きな曲だったわけではないけれど、それでも聴けたことが嬉しくない曲は一曲としてなかった。
 なぜ自分がこんなにもキュアーが好きなのか、僕にはうまく説明できない。でも、まちがいなく僕にとってキュアーは、最愛のロック・バンドのひとつだ。長年観たいと思い続けていたそのステージがようやく生で観られた。しかもよく晴れた月の夜に、広々とした森のあいまに広がる野外ステージで……。これが幸せでなくてなんだろう。まさに真夏の夜の夢と呼ぶにふさわしい体験だった。
 1曲目の演奏が終わったあと、大型スクリーンに映し出されたロバート・スミスが、はにかむように、にこっと微笑んだ。あの笑顔には救われた気がした。よかった、日本での演奏を楽しんでくれているんだと。アンコールのあいま、モッシュピットから帰ってゆくオーディエンスがけっこういて──時刻が時刻だとはいえ、わざわざステージに一番近い場所に陣取っておきながら、『フォレスト』を聴かずに帰るってのは、不届きもいいところだ──、こんなことでロバスミの機嫌を損ねて、また日本に来てくれなくなったらやだなあと、あらぬ心配をしてしまったりもしたけれど、最後に笑顔で「23年後にまた」といって去っていったロバート・スミスの言葉を信じて、ふたたび彼らのステージが観られる日がくるのを待ちたいと思う。
 ありがとう、キュアー。

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 ということで、以下は雑談。
 初めて参加したフジロックフェスティバルについては、ある程度思っていたとおりだった。キュアーの出演したグリーン・ステージを始め、ここでしか体験できない素敵なステージがたくさんあるのはよくわかったけれど、それでも僕にはちょっと違うなという感じ。なんたってこちとら、学生時代から体育の授業と日雇いバイトくらいでしか身体を動かしたことのない、スポーツやアウトドアという言葉とは、とんと無縁の男だ。体力は老人なみで、しかも人混みと行列は大嫌い。そんな男にとって、やはりこうした野外フェスはちょっとばかり場違いだった。
 まあ、今回はシチュエーションにも問題があった。フジロックでは必ず雨が降ると聴いていたから、レインパーカーを新調して出かけたにもかかわらず、この日は一日中、あきれるくらいの快晴。いい天気と喜んでいられたのは最初のうちだけで、予想外の陽射しの強さに、僕の腕は午前中だけで日焼けでまっかっか。陽に当たると腕が痛くてたまらず、情けないことに昼過ぎのステージはほとんど観る気になれなかった。午後の大半はレッド・マーキーの向かいの木陰で休んでいた。
 あと、いまだロックに関心のない愛娘(小学三年生)を一緒に連れて行ったのも失敗だった。やっぱ、生まれて初めて観るライブがサンボマスターってのはねえ……。うちの子はグリーン・ステージのオープニング・アクトでハイテンションのマシンガントークを繰りひろげる山口くんにあてられ、すっかり引いてしまっていた。ファウンテインズ・オブ・ウェインなんかは、それなりに気に入っていたようなので、最初がそういうポップなやつだったらば、またちょっと違っていたのかもしれない。ちょっと可哀想なことをした。

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 なんにしろ、そんなこんなで、ちゃんと観られたのは、妻子と別れてひとりきりで観た、お目当てのキュアーのみ。サンボマスターは子供の様子が気になって集中できず、オーシャンズ・カラー・シーンとファウンテインズ・オブ・ウェインは、レッド・マーキーの外で親子三人座ったまま、流れてくる音に耳を傾けていたという感じ。ジャーヴィス・コッカー(パルプ)とミューズはちらりと見た程度。ミューズはかなりすごそうだったので、ちゃんと観れなくて残念だった。
 あとは陽射しに負けて観にゆく気になれなかったり── 『太陽は僕の敵』@コーネリアス──、ステージが遠すぎて力尽きたり。近くでライブが行われているというのに、思うように観にゆけないというシチュエーションは、なんとも、もどかしかった。
 まあ、ただこれに懲りて二度と行きたくないと思ったかといえば、そんなこともないわけで。やはり僕はロックが好きだし、あちらこちらでいろんな音楽が絶えず鳴り続けているという環境は、まちがいなく魅力的だ。なので、いつの日か、ふたたび足を向けることもあると思う。少なくても、次にキュアーをみる日よりも、フジロックにゆく日のほうが早そうな気がする。次はちゃんとわが子をロック・フリークに育て上げた上で、日焼け止め完備でゆこう。
(Aug 05, 2007)

エレファントカシマシ

2007年9月29日(土)/SHIBUYA-AX

俺たちの明日(初回盤)(DVD付)

 開演時間ぎりぎりに着いて、ホールのドアを開けてみてびっくり。SHIBUYA-AXは超満員で、出口付近までびっしり人で埋まっている。なんでこんなに混んでるのと不思議に思いつつ、ぎゅうぎゅう詰めの人混みの隙間を縫うように、無理やりなかへもぐり込んだ(うしろの人、ごめんなさい)。元業界人であるうちの奥さんがゲットした情報によると、次のシングル 『俺たちの明日』 は、ユニバーサル・ミュージックの12月のいち押しシングルなんだそうだ。レコード会社の移籍にともない、もしかしてすこしばかり風向きが変わったのかな、という気がする。
 なんにしろ、いまのエレカシはとてもいい状態にあるようなので、こういう時にしっかりとリスナーが集まって、レコード会社のプッシュが受けられるというのは、とても喜ばしい。かつてのつかの間の栄光なんてどうでもいいから、ここらでより輝かしい未来をつかみとらせてあげたいと、最近の彼らの元気な姿を見ていると、せつにそう思う。
 この日のライブも内容的に大変充実したものだった。とくに印象的だったのは、前半の裏ベスト的な選曲の妙と、部分部分でみせたこまやかな変化。
 本編が 『シグナル』で始まって 『流れ星のやうな人生』 で終わるという構成には、最近の楽曲に対する宮本の自信のほどが見てとれる気がする。「僕はとてもいい曲だと思うんで、シングルにしたいといったら、冗談じゃないといわれました」と語っていた 『甘き絶望』とか──たしかにそれはちょっと無理がある──、『覚醒』 とかも、派手さはないけれど、いかにもエレカシならではのいい曲だし、ひさしぶりに聴かせてもらった 『コール アンド レスポンス』 は、ロック・バンドとしてのスタイルが明確になったいまになって聴くと、打ち込みでやっていた当時とはまた違う味があって、素晴らしかった。

【セットリスト】
  1. シグナル
  2. この世は最高!
  3. クレッシェンド・デミネンド
  4. さよならパーティー
  5. 甘き絶望
  6. 面影
  7. 覚醒(オマエに言った)
  8. 誰かのささやき
  9. 悲しみの果て
  10. 珍奇男
  11. 笑顔の未来へ
  12. コール アンド レスポンス
  13. 流れ星のやうな人生
    [Encore 1]
  14. 傷だらけの夜明け
  15. 今宵の月のように
  16. 新曲[桜の花~]
    [Encore 2]
  17. ガストロンジャー
  18. 俺たちの明日

 こういう珍しい選曲に加えて、この日の演奏では、おなじみの曲に対しても、ちょっとずつ変更が加えられていた。『珍奇男』 で弾き語りからバンド演奏へと移行する部分のアレンジが少しだけ違っていたり、『今宵の月のように』 で最後のブレイクに、アコギのチャーミングなオブリガートが入ったり、『ガストロンジャー』 のイントロが少しだけ違っていたり。どれもほんのわずかな変化なのだけれど、基本的にほとんどアレンジをいじらないバンドだったけに、そうした細かな変化があるだけで、すごく演奏が新鮮に感じられる──って、なんだか前にも同じようなことを書いていた気がするけれど。
 そう言えば、アレンジの代わり映えのなさとは反対に、宮本がその日の気分で歌詞を微妙にいじくるのは、以前からよくあることだけれど、この日は 『ガストロンジャー』 でのアドリブが傑作だった。「キリスト教の聖書にだって載ってるってことはBC時代から同じこと言ってんだみんなお前」のあとに、「読んだことないけど」というひとことを差し挟む。さらには続けて「おふくろだって言ってるんだよ」「お前の上司だって言ってるんだよ」みたいな感じで続けて、そのあとの「だからそう、胸を張って」のフレーズにつなげてみせた(見事にうろ覚え)。ユーモラスで真剣で、これぞ宮本節の真骨頂。最高でした。
 新曲では前回の2曲に加え、ニューシングルのカップリングの 『さよならパーティー』 と、「桜の花、舞い上がる~」うんぬんという歌詞の曲が初お目見え。あとの曲は宮本が「花を咲かそうというテーマでの究極の一曲ができました」と紹介するくらいの自信作らしいのだけれど、残念ながらその自信のほどには、ぴんとこなかった。 『さよならパーティー』 のほうは、おどけつつも切ない宮本節が全開の曲で、こちらはとても気に入った。
 いや、なんにしろ新曲群はどれもすごくポジティブな印象の曲ばかり。いまのエレカシは、本当に前向きに音楽に取り組んでいるんだと思う。観客に向かって宮本が「おまえら、いい顔しているぜ──暗くて見えないけど」なんてユーモラスに語りかけるのも、そういう自らの前向きな気分が反映されていたのだろう。いやはや、とても気持ちのいいライブだった。
 いまは11月に予定されているシングル、そしていつ出るんだかわからない次のアルバムのリリースが、本当に待ち遠しい。
(Sep 30, 2007)

ラッキー・ソウル

New Blood ~Vo.54~/2007年12月11日(火)/原宿アストロホール

The Great Unwanted

 いまさらこんなのありかいと突っ込みたくなるようなレトロなポップスを聴かせるUKの新人バンド、ラッキー・ソウルの来日公演。
 いや、このバンド、僕が注目した時点ですでに日本での深夜番組のタイアップが決まっていたりしたので、もっと評判になっているのかと思っていたら、そんなことはまったくなかった。会場となったアストロホールは、普段はセミプロのバンドが出演しているらしき小さなホールで、しかも開演5分前に到着したというのに、場内はいまだ五分の入り。なんだ、ぜんぜん盛りあがってないじゃん。
 というか、盛りあがっている、いないの前に、そもそも音響をホールの人(日本人)が手がけている時点で、普段、観にいっている海外アーティストとはレベルが違う。それって専属スタッフがいないってこと? チケットが4,500円と海外組にしては格安だなあと思っていたら、そんな仕掛けがあるとは……。演奏時間も正味1時間ぽっきりだったし、ある意味じゃ適正価格という気がした。
 まあ、この人たちの場合、デビュー盤も自前のインディーズ・レーベルからのリリースみたいだし、要するにプロだと考えるのが間違いなのかもしれない。なんだかそのレトロな音楽性もあいまって、まるで音楽サークルの友人バンドを観ているような気分にさせられるライブだった。一週間前の友人のライブにゆかずに、こういうのを観に来ちゃって、ちょっとばかり申し訳ないことをした気分になった。
 それでも、そんな親しみやすい状況のおかげもあって、この日はとても楽しい思いをさせてもらった。なんたってステージまでの距離がわずか3メートルなんて近さで、まわりの人間にもみくしゃにされることもなく、悠々と海外アーティストのライブを観られることなんて、そうそうない。そんな距離で観られたせいもあって、ただでさえハンドメイド感のあるサウンドが、なおさら身近に感じされて、非常に気持ちよかった。
 そもそも僕がこのバンドを生で観てみたいと思った一番の理由は、その音楽性のクラシックさにあった。バンドは紅一点のボーカリストに、ギター2本にドラム、ベース、キーボードというありふれた編成。この顔ぶれでもって、ホーン、ストリングス、コーラスが必須というイメージのあるモータウン・サウンドをいかに再現してみせるのか。それをぜひ観てみたかった。

【セットリスト】
  1. My Brittle Heart
  2. One Kiss Don't Make A Summer
  3. Ain't Never Been Cool
  4. Struck Dumb
  5. Add Your Light To Mine, Baby
  6. The Towering Inferno
  7. Baby I'm Broke
  8. Give Me Love
  9. It's Yours
  10. The Great Unwanted
  11. Heat Wave
  12. Lips Are Unhappy
  13. Get Outta Town!
    [Encore]
  14. Lonely This Christmas
  15. [不明]

 こういう場合に一番安直な表現方法は、シンセサイザーをガンガン使うことだろう。でも、アルバムで聴けるこのバンドのサウンドは、ホーンなども加わっていて、生バンドならではのグルーヴ感であふれていた。レコーディングでこういう音を出すバンドが、ライブでそう安直にシンセに頼るとは思えない。いったいこのサウンドを、サポートメンバー抜きでどんな風に再現してみせるのか。それが一番の注目だった。そしたらば。
 いやはや、このバンドはコーラスが秀逸なのだった。それも中心となるのは、ギタリストの二人(さらにいえば髪が短い右のほうの青年)。この二人の緩急のあるギター・プレイとコーラスこそ、このバンドの要だと思った。コーラスについては技術的に上手いとか言うんではないのだけれど、とにかく一生懸命、楽しそうに歌っているのがなにより最高だった。 『Add Your Light To Me, Baby』 で、イントロのホーンのフレーズを、実際に「パッパッパララ」と歌っていたのには、いや笑った、笑った。
 ほんと、このライブは目からうろこでした。そうか、ホーンやストリングスがなくても、女性コーラスグループがいなくても、バンドのメンバーががんばってコーラスさえつければ、ちゃんとオールディーズの味わいが出せるんだ。もちろん、そういうコーラスが生かせる演奏力があってこそなんだろうけれど。いはやは、非常に勉強になりました。
 それにしてもこの人たち、本当に人がよさそうで、派手なロックンロール・ライフなんかとは、まるで縁がなさそうなバンドだった。ボーカルのアリ・ハワード譲がミニのワンピース、男性メンバーは全員ダークスーツ姿(ただしデザインや着こなしはまちまち)というファッションも、そういうイメージを助長していた。キーボードの青年は日本語の勉強をしたことがあるらしく、メンバーに促されて「次の曲はテレビで聴いたことがあるでしょう」とか、片言{かたこと}ながら、ちゃんと通じる日本語を話していた。僕の斜め前にいた女の子が、「なんであの人、日本語話せるの~」と感心(?)していたのがおかしかった。
 残念なことに、ボーカルのアリ嬢は思っていたほどに弾けた印象がなくて、もとよりルックスにアイドル性があるでもないし、音楽に革新性は皆無だし、このままだとちょっとブレイクは難しいんじゃないかという気がする。UKロック・ファンとしては、同じ日に渋谷で行われていたクラクソンズを無視して、こっちを観ているのはどうだろうと思う部分もある。それでも僕はこのバンド、とても好きだった。オリジナルはもとより、バンドのイメージそのまんまのマーサ&ヴァンデラスのカバー、 『Heat Wave』 も最高でした。
 願わくば成功を手に、二度目の来日公演を果たして、次は二時間のコンサートを見せてもらえたら嬉しい。
(Dec 12, 2007)