エレファントカシマシ
デビュー25周年記念SPECIAL LIVE/2014年1月11日(土)/さいたまスーパーアリーナ

本来ならば去年開催されるはずだったんでしょう。宮本難聴による活動休止のため、一年遅れでの開催となったエレカシの25周年記念ライブ。初のさいたまスーパーアリーナ公演。
宮本いわく、この日の入場者数は1万3千人とのこと。ここはフルで入れると2万人以上入るらしいので、けっして満員ではなかったようだけれど、それでも空席は目立たず──指定席は完売だったという噂だから当然か──オールスタンディングのアリーナ後方から見た限りでは、ちゃんと大入り満員な感じになっていた。めでたい。
いや、それにしても今回の公演は25周年記念+過去最大規模の会場ということで、初物づくしだった。
そもそも開演を待つあいだのBGMからして違う。なにやらピアノのジャズ・ナンバーがかかっていたりするし。いざ、開演というときには、壮大なスケール感のあるSEが流れるし(『悪魔メフィスト』で始める気かと思った)。最初からもう、あ~、今回は特別なんだという感ありあり。
オープニング・ナンバー、『Sky is blue』(僕としてはとても意外な選曲だった)では、ステージ後方の大型スクリーンに巨大な「昇れる太陽」の映像が映し出され、その前にメンバーのシルエットが浮かび上がるという、なにやら今風の趣向。
さらに2曲目が始まる前には、そのスクリーンで1から26までの数値がカウントアップされてゆき──25周年記念といいつつ、ちゃんと1年オーバーしている分をカウントするところが律義だ──、その最後に「奴」「隷」「天」「国」の文字がインサートされるという演出つき。そして『奴隷天国』が始まるとともに、大量の風船が天井からどーっと降ってくるという。さらには巨大なボールがフロアのオーディエンスの頭上にごろごろと転がり込んでくるおまけつき。
まさかエレカシのライブで風船と巨大ボールを浴びせかけられる日がこようとは!
ちなみに僕は前ばっか見ていて後方に気がつかず、うしろから飛んできたボールに3度も頭を直撃されました。あのボール、でかいだけあって意外と重いんだ。不意打ちで頭にぶつけられて、首がくじけるかと思った。
去年のバンプの幕張でも同じ演出があったけれど、あのときはボールが飛んできても、まわりの若者たちが反応するから、すべて頭上を通過してしまって、一度も触わる機会がなかったのに、この日は頼みもしないのに3回も頭に……。そのへん、やはりスタンディングの観客が少なくて、おまけに若くない証拠なんだろうなと思ったり……(失礼)。
なんにしろ、そんなんで風船と巨大ボールが飛びかっちゃうもんだから、楽しいっちゃ楽しいものの、演奏に集中できないこと、はなはだしい。ライブでこんなにちゃんと聴けない『奴隷天国』は初めてだったよ。
そのあと、3曲目で早くも『悲しみの果て』を聴かせてから、ステージには満を持して金原千恵子ストリングスの皆様と山本拓夫グループのホーン四名様が登場。とうぜん最初からいた蔦谷、ヒラマの御両人も含めての、豪華な大所帯でのセッションとなった。
エレカシがストリングスとホーンをゲストに迎えるというのは武道館でもすっかり定番化しているけれど、この日はその規模が違った。いつもだったら、出たり入ったりを繰り返すストリングスとホーンの皆さんが、今回は序盤はそのままずっと出ずっぱり。中盤でいったん引っ込んだものの、その後も出てないよりは出ているときのほうが多く、最終的にこれらゲストの方々をまじえて演奏された曲の数、じつに20曲以上とくる。
要するに、ふつうのライブだったら、それだけで全編といってもいいくらいの曲が吹奏楽団をフィーチャーして演奏されたのだった。いやぁ、すげー豪華。さすが25周年記念。
【SET LIST】
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それらの曲の中でとくに印象的だったのは、もともと歌謡曲テイストあふれる『ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ』が、ホーンとストリングスがついたことにより、見事なまでの歌謡ナンバーに仕上がっていたこと。あと、『MASTERPIECE』のツアーを見逃したことで、もしや一生聴くことがなく終わるんじゃないかと思っていた『Darling』が、なぜかその曲だけが金原・笠原の御二方をフィーチャーして演奏されていたことなど。
過去にも披露されたことのある曲でいえば、ホーンならこの曲という印象のある『今はここが真ん中さ!』や、ストリングス入りならばぜひこれが聴きたいって思っていた『シャララ』、『昔の侍』、『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』などがちゃんと聴かせてもらえるあたり、さすがに25周年記念だなぁと思った。とくに『昔の侍』のストリングスのはまり具合なんかは、これまでで最高だと思った。いや、その曲にかぎらず、ストリングスとホーンとのアンサンブル自体が、過去最高の出来映えだったんじゃないだろうか。
そんな風に全体的に大所帯のステージだっただけに、ポプコンに出演したときの思い出ばなしを枕にした『やさしさ』と、それにつづく『珍奇男』がメンバー4人だけでの演奏だったのが、また泣かせた。
また、そのあとの『風に吹かれて』と『傷だらけの夜明け』では、エレカシのメンバー3人を引っ込め、蔦谷くんとミッキーだけをバックにアコースティック・セットを聴かせてみせる。いろいろ手をかえ品をかえ。その姿勢がさらなるスペシャル感をあおる。
そうそう、その間に演奏された『男餓鬼道空っ風』では、観客に「へーい、へいへいへーい、へい」と歌わせる、伝説のコール・アンド・レスポンス・コーナーが復活(なっつかし~)。僕らを含むロートル・ファンの苦笑を買いながらも、かつてはなかったほどの大合唱を引き出してみせるなんて一幕もあった。
この日のステージには花道もあって──当然これもエレカシ史上初──、『あなたへ』では、その先端まで宮本だけがひとり出張して、そこにマイク・スタンドを立てて歌うという、ふつうのバンドはあまりやらなさそうな演出もあった。アンコールではスタッフがわざわざ立てたマイク・スタンドを結局使わない、なんて曲もあったり。宮本、自由人。
この花道が最大の見せ場となったのが、アンコール──それだけで11曲も披露されたので、関係者に配られたセットリストでは「第二部」となっていたようだけれど、そんなの知らずに観ていた僕らにとっては、完全にアンコール──で演奏された『桜の花、舞い上がる道を』。
この曲では文字通り、桜の花びらが舞いあがるという粋な演出があって、これがめちゃくちゃきれいだった。とくに宮本が花道へと出張ってきたときがクライマックス。ピンクにライトアップされたステージをバックに、桜の花びらが舞い上がる中、ひとりピンスポットを浴びた宮本が、いつものように腰を落として天を仰ぎ絶叫している、その絵のなんと格好よかったことか!
もともと演出に凝らないバンドだけに、20年以上の長きに渡りエレカシのライブを見てきているけれど、あそこまで絵になるビジュアルを目にしたのはおそらく初めてだ。エレカシのライブ史上でも、屈指の名場面だった。
この日、僕らがいたのはスタンディング・ブロックのBということで、とてもステージが遠かったのだけれど、それでもあの絵を見れたのは、あの位置にいたからこそ。それだけでも、あえてオールスタンディングのチケットを選んでよかったなぁと思った。それくらいにめちゃくちゃカッコいいシーンだった。叶うならば写真に撮って額に入れて飾っておきたいくらい。
そのほか、アンコールでは宮本が『未来の笑顔で』の歌詞を忘れまくって失笑を買ったり、ホーンつきの『生命賛歌』がえれぇ迫力だったり、その曲でスクリーンを四分割にしてメンバー四人を映し出した映像を見て、あらためてみんな年を取ったなぁと思ったりと、まだまだ書くべきことにはこと欠かないのだけれど。
とにかくもう、見どころ、聴きどころ満載のライブだったので、いま現在の僕の文章力では、とてもそのすべては書き残せない。
最後の最後、このライブを締めくくるのにふさわしいというか、ふさわしくないというか、大笑いさせてもらったのが、2度目のアンコールで、ふたたびエレカシのメンバーが4人だけで現れて演奏し始めた、『男は行く』。
いやぁ、これがひとかったんだ。音はすかすかで、演奏ぐだぐだで。あきらかに練習不足なのがありあり。なんでここまで素晴らしいライブをやったあとで、最後の最後にこれなのって。この曲ではずっと客席のライトがついたままだったこともあって、まわりの客席の熱気が一瞬ですーっと引いてしまったような印象を受けた。初物づくしのこの日だったけれど、こんなに迫力のない『男は行く』も初めてだよ……。
そのあとにつづけて披露された『待つ男』は、蔦谷くんたちがふたたび参加したこともあり、音の厚みも十分で、迫力のある演奏に真っ赤なライトアップも映えて、これぞトリを飾るにふさわしいって熱演だったから、推測するに、おそらくあの『男は行く』は、宮本が最後にメンバー四人だけでやりたいといって、突発的に突っ込んだ曲なのではないかと思う。それゆえセッティング不十分に練習不足が重なって、満足のゆく音が出せなかったんじゃないかと。そうとでも考えないと、あの出来の悪さは考えられない。
とはいえ、僕はこの曲の不出来さにこそ、エレカシの変わらなさを見た気がして、逆に盛りあがってしまったのだった。演奏自体はいただけなかったけれど、過去最大のステージで最高の演奏を繰り広げたあと、あの局面でよりによってあの曲──だって「豚に真珠だ貴様らには聞かせる歌などなくなった」だよ?──を、完成度を無視して、あえて演奏してしまう(しかも照明をつけたままで)。そんな宮本のズレた姿勢が、ほんと僕はもう大好きだ。
終わってみれば、正味4時間で全37曲という、わが音楽人生の中でも間違いなく最長のライブだった。それだけで、ふつうならば圧巻といって終わってしかるべきところを、そう思わせて終わらせてくれないところが、よくも悪くもすごい。いいところも悪いところも含めて、これぞ僕らのエレカシと思わせてくれる。やっぱこんなバンド、ほかにない。
この日のライブはWOWOWで生放送された。そのテレビ放送枠の4時間を超えてなお終わらなかったというのもすごいけれど、その破格の長さをまったく感じさせなかった点もなおすごい。あれやこれや含め、やっぱりエレカシって特別だよなぁとあらためて思った新春の一夜でした。いやぁ、いいもの見せてもらった。
(Jan 19, 2014)