エレファントカシマシ
新春ライブ2015/2015年1月3日(土)/日本武道館

去年のさいたまアリーナににつづき、今年も新年一発目はエレカシの新春公演。それも今年は正月休み中の武道館2デイズ!
──ということで、お祝い気分も何割増し。残念ながら二日目は完売とはならなかったようだけれど、WOWOWの生放送を観たかぎり、空席が目立つほどではなかったから、なおさらめでたい。正月早々エレカシを見たい人たちで武道館が二日も埋まるってのは、なんとも感慨深いものがある。
さて、エレカシのアリーナ公演というと、管弦楽がフィーチャーされたスペシャルな企画ものになるのが相場だけれど、今年は二日間──しかも二日目にはテレビの生放送が決まっていた。去年が過去最高にショーアップされた内容だっただけに、こりゃもう、あれを上回るようなド派手な内容になるかもなぁ──と思っていたら、ちっともそんなことはなかった。
なんたって、会場の広さにもかかわらず、この日は大型スクリーンがない。
テレビの生放送がある──つまりカメラ自体は回っている──のに、それを演出に使わないライブって、かなり珍しい気がする。そもそもアリーナ公演で映像の演出なしってのが、いまとなると珍しい。
さらには、予想どおりストリングス──おなじみ金原千恵子管弦楽団のみなさん──がゲスト参加していたものの、今回は人数が8人と小編成。そして出番も10曲たらず──。
ということで、結局あけてみれば演出らしい演出は照明のみで(でもそれは比較的こっていた。とくに宮本にピンスポットがあたったシーンなどは極上の絵だった)、ストリングスが加わった分、通常のツアーにくらべれば豪華だけれど、でもそれも過去の例からすると、比較的地味だったかなと──でも、それもまたエレカシらしいかなと。そんな今回の正月公演だった。
まぁ、地味だったと思うのも、去年の二十五周年記念ライブと比べるからであって(あと演出面での話であって)、ライブ自体は今回も3時間を超える充実した内容だった。
あ、とはいえ、セットリストの面でも、地味っちゃぁ地味だったかもしれない。だっていきなりオープニング・ナンバーが『部屋』だし。それにつづくは『始まりはいつも』に『ココロのままに』とくるし。おいおい、いきなりいちげんさんへの配慮ゼロだな──。
といいつつ、でも僕らのように長いことエレカシとつきあっているファンにとっては、それがまた嬉しかったりするわけです。うわー、こんな曲で始めちゃうのかと。そんな新鮮な驚きがあった。『精神暗黒街』、『季節はずれの男』、『もしも願いが叶うなら』なども、ひさしぶりに聴けて嬉しかった。
この日、もうひとつ意外だったのは、ゲストの金原楽団がなかなか出てこなかったこと(蔦谷くん、ヒラマくんはもはやゲストとはカウントしません)。
ステージ上にストリングス・チーム用のパーティションが配置されていたから、弦楽団がゲストで出るのは初めからわかっていたのに、待てど暮らせど出てこない。
4曲目で『今はここが真ん中さ!』のイントロが鳴ったときには、「お、いよいよゲスト・コーナーか!」と思ったんだけれど、残念ながらこの日はホーン・チームは不参加。で、ようやく金原・笠原のおふたりが『彼女は買い物の帰り道』で楽団よりひとあし先に登場したのは、本編も半分が過ぎてからだった。
【SET LIST】
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その後、金原楽団は、特になんの説明もないまま、出たり入ったりを繰り返していた。
僕らの席はアリーナのいちば左隅のブロックで、ステージをほぼ真横から眺める形だったので、ストリングスは中央の2、3人しか見えず──笠原さんは最初のとき以外、まったく見えなかった──、だから翌日テレビ放送で見るまでは8人編成なのもわからなかったし、照明が暗いときなどは、ステージに出ているのかどうかもよくわからなかった。
なので、ストリングス付きのナンバーのあとに始まった『もしも願いが叶うなら』や『今宵の月のように』などでは、「おぉ、この曲にストリングスは新しい!」と思ったのに、じつはストリングスがついてなくてがっかり──なんてことが何度かあった。まぁ、それもまた新鮮な体験だといえなくもない。
この日のライブで個人的にもっともインパクトがあったのは、本編を『俺たちの明日』で締めたあとの、一度目のアンコールの濃い内容(本編ラストで宮本が「第一部!」と叫んでいたから、正しくはこの日も第二部という扱いらしい)。
まずは、いかにもストリングス映えしそうな一曲目の『大地のシンフォニー』が、今回もバンドだけで演奏されたのが意外だった(そうそう、すっかり書き忘れていたけれど、一昨年の野音でこの曲のドラムのマーチングのフレーズをトミが叩いていないのを見て、初めてこの曲が打ち込みを使っていることを知って、びっくりしたんだった)。そのあとに演奏された『Destiry』と『桜の花、舞い上がる道を』が、きらびやかに弦で飾り立てられていただけに、なおさらだった(それにしても『桜の花』はストリングスがつくとほんとに映えること)。
で、じつはこの日いちばんすごいなと思ったのはそのあとで、復活の野音で初披露されて以来となる新曲『なからん』、この日が初お披露目の『雨の日も』、そして『Destiny』のカップリング・ナンバーの『明日を行け』という、エレカシ史上もっとも極渋系のロック・ナンバーを3曲も並べてみせたところ。あのパートだけで20分くらいやってたんじゃないだろうか。
なにゆえ、おとそ気分真っ只中の新春ライブのアンコールで、『悲しみの果て』が大好きなファンにはおそらく総スカンだろうって長尺のハード・ロック・ナンバーを3曲も並べてみせなきゃならないのか。けっこう選曲が違った翌日の生放送でも、この部分はそのままだったし。その辺の演出感覚が意味不明。
ライブの序盤で──たぶん『デーデ』のときに──「今年はガンガン稼ぐぜ!」って宣言した宮本が、そんな風にぜんぜん稼げそうにない曲を遠慮なくガンガン鳴らしているという。そのずれ具合がなんともおもしろかった。でもズレてるにもほどがあると思う。
とはいえ、そのパートのあとだったからだろうか。
そのあとに演奏された『新しい季節へキミと』。これがもう、とんでもなく素晴らしかった。
この曲はこの日、館内の照明をすべてつけて、明るいなかで演奏された(翌日はたぶん普通に暗いままだった)。
本来、まわりの人の顔がはっきりと見えるそうした演出は、よほど盛りあがっていない限り、気恥ずかしくてあまり歓迎できないものだと思う。実際、過去のエレカシのライブでは、そうした演出は『ガストロンジャー』などの超攻撃的な曲のときに、いわば「おのれの化けの皮を剥ぐ」ことの象徴として使われていたと記憶している。
それがこの日は違った。『新しい季節へキミと』という、極めてポジティブなメッセージを持った明るい楽曲でもって、きらきらとしたストリングス・アレンジを施した演奏に対して行われた。
いつもならば「うわー、ちょっと勘弁してくれ」と思ってしまいそうな演出なのだけれど、それがこの日は不思議とそうではなかった。その屈託のないあかるさは、まばゆいばかりのその演奏とあいまって、気恥ずかしさをこれっぽっちも感じせない、なんとも感動的な風景として僕の目に映った。
演奏それ自体の素晴らしさに加えて、その前のダークな楽曲群との明暗のギャップがいいほうに作用していたのかもしれない。正直なところ、それほど好きな曲ではないんだけれど、この日の演奏はもうほんと最上級に美しかった。この日の僕のクライマックスは文句なしにこの曲。
その後もアンコールはつづき、ひさびさの『FLYER』に定番の『ガストロンジャー』と『ファイティングマン』で一度は終了。二度目の短めのアンコールでは、宮本が突発的に『ハナウタ』をやると言い出して、弦楽団が泡くって駆けだしてくるという、ちょっぴりコミカルなハプニングもあった。
そして三度目のアンコール。この日最後の一曲に選ばれたのは『花男』。
こと締めくくりの一曲としては『待つ男』のほうが愛着はあるけれど、『花男』を聴くのもなんだかとてもひさしぶりだったし、これはこれで当然大好きなナンバーなので、今回はこれがラスト・ナンバーで嬉しかった。
テレビ放送された翌日は、『夢のちまた』で始まり『待つ男』で終わるという──そしてストリングスが入るならばぜひ聴きたいと思っていたのに、初日には演奏してもらえなかった『明日への記憶』もやるという──どちらかというと、より僕好みのセットリストだったのだけれど、逆にこの初日は比較的愛着のない曲が多かった分、確実に新鮮度が高かったので、その点が新春の気分にふさわしかったと思う。新年早々とてもいいもの見せてもらいました。ありがとう。
最後に──。あまりファッションにこだわらないエレカシのメンバーのなかにあって、ここ数年はツアーごとに髪型をかえて楽しませてくれる石クン。今回は黒い長髪に帽子にサングラスという格好で、往年の名ギタリストか、はたまた内田裕也かって風情を醸し出していたのがおもしろかった。ここまでくれると、あれも立派な芸だなぁと思う。
(Jan 25, 2015)