エレファントカシマシ
新春ライブ 2017 日本武道館/2017年1月6日(金)/日本武道館

毎年恒例のエレカシ新春ライブ、今年の開場は日本武道館。正月からこの場所でエレカシを観られるってのは、やっぱ幸せだ。
僕らの席は一階席。ファンクラブで取ったにもかかわらず、アリーナではなく一階席、しかもステージ向かって左のいちばん隅っこのほう……と知ったときには、ステージを横から眺めることになって、いまいちじゃないかと思っていたんだけれど、なんと今回はそれがすごくよかった。
なんたって、武道館ほどの規模の会場にもかかわらず、今回もエレカシのステージにはスクリーンがないわけです。花道やサブステージなんかも当然ない。照明を除けば、演出らしい演出も皆無。要するに肉眼で観られるものだけがすべて。
こうなると、なにより距離がものをいう。で、僕らの席は一階席ながら、その最前列だった。要するに同じ一階席ならば、真正面なんかより、だんぜんステージが近い。しかも目の前をさえぎるものはなにもないという。おまけにバンドがステージ中央にこじんまりと集まっていたこともあって、僕らの視野にはメンバー全員がしっかり入ってくる(全員横向きだけど)。
この横から少し見下ろす感じで、メンバー全員を自然と視野に収められるアングルがとてもよかった。広い会場だとメンバーのひとりひとりを見る感じになってしまうことが多いけれど、この日はつねに全員が視野に入っていたので、あたかもライブハウスで観ているような臨場感があった。
以前に石くんが「ライブハウス武道館へようこそ」っていって笑いをとったことがあったけれど、この日の武道館はまさにそんな感じでした。これくらい大きなハコでこんな感じでライブを楽しめるって、とても貴重だと思った。
この日のエレカシはメンバー四人にミッキーとSunnyというキーボードの人を加えた六人編成。
サニーさん(年下なのになぜか「さん」をつけたくなる)、何度かエレカシのステージに参加しているとは聞いていたけれど、僕が生で観るのはこれが初めて。オーソドックスなピアノやオルガン主体のプレーって感じで、エレカシにはあっていると思った。なかなか好印象でした。
アリーナの場合はストリングスやホーンを加えた大所帯で華やかにやるってパターンが多いけれど、今回は余計な演出なしに、エレファントカシマシというバンドの演奏をシンプルに聴かせようって、俺たちが三十年をかけて築き上げてきた音楽をたんとお楽しみあれって。そういうステージだったと思う。
そのことをなにより象徴していたのが、一曲目に演奏された『夢のちまた』。
この曲はエレカシが初めてこのステージに立った伝説の武道館三千席でもオープニングを飾ったナンバーだった(はず、たぶん。間違っていたらごめんなさい)。
そのときと同じ曲を、あれから二十六年後のこの日、エレカシはふたたび武道館の一曲目に聴かせてくれた。同じように飾り気のない演出で。今度は超満員の観客の前で。
宮本の歌声はあのころよりもおおらかになっていたけれど、その伸びやかな歌声がまたなんとも味わい深かった。
この日のライブはそんな『夢のちまた』から始まり、ひさびさに『デーデ』と『星の砂』がメドレーで演奏されたり、『珍奇男』が近年まれにみる絶品(ほんと絶品!)だったりして、本当にあの武道館三千席を思い出させるものがあった。
でもだからじゃあ懐古的な内容だったかというとそんなことはない。古い曲と新しい曲を交互にくりだしつつ進むそのステージは、かれこれ三十年に及ぼうってそのキャリアをバランスよく反映した素晴らしい内容だった。懐メロ感は皆無。
そもそも『デーデ』からして、この日は宮本がイントロを弾くという、思いがけない演奏だったし(弾いたのはイントロだけみたいなもんだったけど)。長いことエレカシを観てきたけど、あの曲で宮本がギターを弾くのなんて初めて観たよ(でもあの曲のイントロは数少ない石くんの見せ場なのに。なんてご無体な)。
【SET LIST】
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僕がこの日の演奏でもっともいいと思ったのは、前にも書いた『珍奇男』。聴かせてもらえて嬉しかったのは、『東京ジェラシィ』(宮本が「なぜか好きな曲です」と紹介するのを聞いて「俺も俺も」と思った)。あと、『はじまりは今』も、苦手なポニーキャニオン時代の曲のなかでは比較的好きな曲なので、ひさしぶりに聴けて嬉しかった。
そういえば、なんかの曲の前に、宮本が『晩秋の一夜』をギターだけでひとくさり歌っておきながら、でもそれでおしまい、なんてこともあった。次の曲がぜんぜん違う曲だったので、なおさら、おいおいと思った。せっかくだからそこは全部聴かせてくれよ~。
あと、この日のステージで印象的だったのは、曲が終わったあとで宮本が「歌いたりない!」とでもいうように、ふたたび一人で歌を歌い始めて、バンドがそれに追従して演奏を再開してみせる場面が何度もあったこと。宮本の気まぐれなアドリブにつきあって、ちゃんと演奏を再開できるトミたちって、意外と演奏力が高いのかもしれないと思いました。それとも、ああいうのもあらかじめ練習してたりするんだろうか。
とはいえ、演奏に関していえば、曲の途中でトミが宮本にせかされて、リズムが速くなったり、遅くなったりってシーンも二度三度あったけれども。
ああいう風に曲の途中でリズムが変わっちゃうのって、ほかのバンドではまずないと思う(というか音楽的にあっちゃいけない気がする)。しかも武道館ほどの広い会場で、ああいう演奏するバンドって、ほかにはいないんじゃないだろうか。そういや、宮本がいつもの黒いストラトのチューニングが狂っていることに憤慨して、「このギター駄目、失格」とかいって、演奏を中断したこともあった。
ほんとエレカシって、上手いんだか下手なんだか、よくわからない──っていや、やっぱ上手くはないな。
でもまぁ、何度も書いているように、エレカシの場合はそこがまたおもしろかったりするわけです。この安定感のなさこそがロックだと思う。下手なままでも武道館を満員にできる。そこには確実にロックバンドだからこその夢がある。そう思いません?
そのほか、どうでもいいようなことでおもしろかったことといえば、黒いジャケット姿で出てきた宮本が、序盤で脱いだそのジャケットを、真ん中あたりでふたたび着たこと。「ステージじゃ風が吹いていて」とか言っていたけれど、いつも汗だくなステージを見せてくれている人だけに、演奏中に一度は脱いだジャケットをもう一度着るのって、珍しい気がした。さすがに武道館は広くて、なかなか体が温まらなかったらしい。
珍しいといえば、第二部では靴をスニーカー(黒のジャックパーセル?)に履きかえていたのも珍しいと思った。ステージで宮本がスニーカーを履いているのを見たのって、初めてな気がする。最近ではたまにあるんでしょうか?
そうそう、服装といえば石くんを忘れちゃいけない。この日はTシャツにジーンズというところは普通ながら、帽子をかぶってウエストくらいまで伸ばした長いカーリーヘアをなびかせたそのさまは、まるで七十年代の伝説のロック・スターのよう。でもなによりのつっこみどころは、ぶっとくて赤いマフラーをなんとも珍妙な感じで身につけていたこと。横からみるとそのマフラーがちゃんちゃんこのように見えて、還暦祝いには十年早いけれど、なんだありゃって感じでした。彼はこの先どこまで行っちゃうんだろう。
本編の最後はそんな石くんの見せ場である『ファイティングマン』。最近恒例のストーンズみたいなお別れの挨拶を、この日の宮本はアンコールの最後ではなく、この曲のあとでやってみせた。数をこなしてすっかり慣れたのか、以前のようなぎこちなさがないのが微笑ましかった。
そしてアンコール。一曲目で宮本が男椅子に坐り、ひとりスポットライトを浴びて『涙』を歌う姿は、この日いちばん絵になった。ああいうのを見ると、女性のほうが多いのも当然かなぁと思う。
そのあとに『今宵』を挟んで間髪入れずに始まったこの日のラスト・ナンバーは『待つ男』。
場内まっくらな中、まっかなライト(しかもかなり暗め)だけに照らされた宮本は、はじめのうち、いつものように中腰にならず、すっと背筋を伸ばしたまま、この歌を歌っていた。あの破格の大声を直立姿勢で歌っているのが、いつにない不思議な感じだった(さすがに最後のほうはいつも通り中腰になっていたけど)。
このラストのアングラ感がすごかった。だだっ広いまっくらな武道館に、赤一色でぼうっと浮かび上がる宮本の姿には、一種異様なものがあった。オレたちいったいなに見てんだろうってあの感じ。武道館でこういう感じを味わうことってめったにないだろう。そういう点でもこの日の武道館には三千席の昔に通じるものがあった。あれこそ超アングラの極みだったから。
でも、いまがあのころとは確実に違うと思わせたのは、その曲が終わった瞬間に照明がぱっと全灯して、場内が一瞬で明るくなったところ。闇から光へ。あの瞬間の爆発的な解放感こそが、エレカシが三十年をかけて培ってきたものを象徴しているんだろう。
ほんと新年そうそう素晴らしいライヴをみせてもらって大満足でした。春から始まるデビュー三十周年記念の全国横断四十七都道府県ツアーもとても楽しみだ。
今年もいい一年になりますように。
(Jan 15, 2017)