バルザックと小さな中国のお針子
ダイ・シージエ/新島進・訳/ハヤカワepi文庫
フランス在住の中国人映画監督がフランス語で書き上げたという処女長編。文化大革命の時期の中国の小村を舞台に、ふたりの青年とひとりの少女の恋のゆくえを描いて見せた青春小説で、かなり自伝的な要素を含んだ内容らしい。
不勉強にして中国の現代史に関する知識が皆無の僕は、文化大革命とはなんぞやも知らなかった。それだけに、この小説で描かれるように、ほとんどすべての書物が禁書とされ、資産階級の知識人の子息から教育を奪い、「再教育」と称して貧農下農中農のもとに派遣して、肉体労働を強制するなんていう政策が実際に施行されていたという事実には、あ然としてしまう。音楽や小説をなによりも愛する僕にとって、この小説で描かれる中国は、まさにディストピアだ。すでにビートルズが活躍していた時期、つまり僕が生まれた頃に、おとなりの国でそんな不条理な政策が行われていたなんて、ちょっとばかり信じがたい。どういう国なんだ、いったい。
とにかくこの小説では、そんな悪政のもと、十七にして学問を奪われ、ひとつ年上の親友・
この小説、作者の立ち位置のせいか、意外なほど中国っぽくない。終盤の展開は『さよならコロンバス』、『旅路の果て』、『愛のゆくえ』などのアメリカ現代文学を思い出させるし(ネタばれ失礼)、舞台が特殊なことをのぞけば、きわめて普遍的な青春小説だと思う。圧政により自由を奪われた青年たちが、権力の目を盗んで文学や美しい少女に胸をときめかる、そのせつなさには、じゅうぶん共感できるものがあった。
(Apr 15, 2007)