コズモポリス
ドン・デリーロ/上岡伸雄・訳/新潮社
この小説の舞台は、ごく近未来のニューヨーク。インターネットで巨額の富を得て、大統領に影響力を及ぼすほどの存在となった主人公が、オフィス替わりのリムジンで交通渋滞のマンハッタンをのろのろと移動しながら経験する、セックスと暴力に満ちた波乱の一日を描いてゆく、という内容になっている。
これを読んで僕は、村上龍を思い出した。即物的な悪夢、あるいはリアルな白昼夢とでもいった雰囲気には、かの人に通じるものがあると思った。まあ、村上龍といっても、僕が読んだことがあるのは 『海の向こうで戦争が始まる』 や 『コインロッカー・ベイビーズ』 など、初期の数作だけなのだけれど。
で、作家としての力量には感銘を受けながらも、村上龍のそうした即物的な作風があまり好きとはいえない僕にとって、このドン・デリーロという人も、やはり苦手なタイプの作家だったりする。
この人の作品を読むのは、 『アンダーワールド』、 『ボディ・アーティスト』 に続いて、これが三作目なのだけれど、正直なところ、どれをとっても僕には、よくわからない話ばかりだ。現代アメリカ文学界では高い評価を得ているようだけれど、いまの僕にとっては、読むだけ時間の無駄。自分にわからないことがあることを知る上でのみ意味がある、まさに「無知の知」を確認するための作家という感じになってしまっている。
ちなみにこの本、新刊として購入してから3年ばかりほったらかしにしていて、ようやく読んでみたと思ったらば、いまやすでに絶版状態になっていた。まあ、確かにあまり知名度の高い作家ではないんだろうけれど、それにしても翻訳ものの出版事情はシビアだなあと思う。
(Jul 01, 2007)