みなさんはニューヨークの世界貿易センター(WTC)が、ツイン・タワーを含めた七つのビルから構成されていたって知ってましたか? そしてそれらがあの同時多発テロで、ひとつ残らずすべて倒壊してしまったという事実を?
デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウ主演の同名映画の原案となった、マンハッタンの黒人麻薬王に関するノンフィクションを中心に編纂されたニューヨーク(の主に裏社会)にまつわるルポルタージュ集であるこの本を読んで、僕が一番刺激を受けたのは、そんな9.11に関する事実に触れた記事においてだった。
この本の筆者は、双子のビルが倒壊した直後に現場へと足を運び、それまでは煙を吐きながらもなんとか建っていた第七ビルが突然倒壊して、跡形もなくなるところを目撃したのだという。別に旅客機が衝突したでもない、となりのビルがだ。
確かにツイン・タワーがそろってあれだけの被害を受ければ、近隣の建物にも被害が及ぶのは当然だろう。でも、それにしたって火災だけならばともかく、跡形もなく倒壊するってのは、なんなんだと。ちょっと不自然すぎやしないかと。作者はそう指摘する。
僕もこの本を読んだあとでネットを検索して、世界貿易センターの跡地、いわゆるグラウンド・ゼロの航空写真を見て、驚いた。だって、同じ敷地内にあった六つのビルが全滅しているだけではなく、となりの敷地にあった第七ビルまでが、まるで仲間の道連れになるように倒壊しているんだから。しかも、それを挟むように建っている左右のビルはそのまま残っている。
たしかにこの写真を見てしまうと、テロリスト以外の誰かがテロに乗じて、WTC全体を故意にこの世から葬り去ったのではないかと疑う人がいても不思議じゃなくなる。専門家のなかには、中から爆薬で破壊しないかぎり、ビルディングがあんなふうに倒壊するはずがないと語る人もいるのだそうだ。しかもWTCのオーナーは、WTCの倒壊により、何億ドルという、その資産価値の倍以上の保険料を受け取っているという。
ということで、9.11に関しては、以上のような事実や、その他もろもろを含めて、テロの計画を知っていたにもかかわらず、政府がどなたかの利益を図って、わざと防御措置をとらなかったとする LIHOP (Let It Happen On Purpose =本書いわく“意図的にそうなるようにしむけた”説)というのと、政府がテロリストを誘導して故意に同時多発テロを起こさせたとする MIHOP (Make It Happen On Purpose =“意図的にやった”説)というのがあって、まるでジョン・F・ケネディの暗殺事件の真相をめぐる論争と同じように、政府の陰謀の存在を暴こうという局部的な社会運動が巻き起こっているのだそうだ。世の中、いろいろと知らないことがあるもんだなあと思う。いやはや、びっくりした。
もちろん映画化されるくらいだから、表題作である黒人ギャング、フランク・ルーカスの話もおもしろいし──とくに落ちぶれて貧乏暮らしをしていた晩年のルーカスが、この本のおかげで映画化権が売れた途端、恩人のはずの作者を脅迫して「収入は全額おれがもらう」と言い出したという逸話が強烈だ──、地元っ子の案内でニューヨークの裏通りを散策している気分になれる、なかなかおもしろい本だった。
(Mar 24, 2008)