インディアナ、インディアナ
レアード・ハント/柴田元幸・訳/朝日新聞社
六十八年生まれ(僕より二歳年下)のアメリカ人作家、レアード・ハントの長編第二作。翻訳はこれが本邦初登場とのこと。
この小説、長編小説としては短めであるにもかかわらず、断片的な回想シーンや手紙を挿しはさみつつ、時間軸をいったりきたりしながら語られてゆく上に、ときとして文章の乱れを恐れない奔放さのある文体のため、思いのほか読むのに骨が折れた。小説としての手ごわさでは、ウィリアム・フォークナーやトニ・モリソンに通じるものがあると思う(つまりノーベル文学賞系)。ただし作品が醸しだす雰囲気は、かの文豪たちと比べると、ずいぶんと優しげだ。
この小説の主人公はノアという知的障害のある男性(この点もフォークナーを連想させる)。物語の現在において彼はすでに老人なのだけれど、その言動は知的障害者ゆえの純真さであふれていて、しかも物語の大半が、両親とともに暮らしていた若いころの回想シーンであるため、僕には青年としてのイメージのほうが強く残っている。
ノアにはオーパルという奥さんがいて、この人も精神的に問題をかかえている(それもかなり激しく)。ただし、彼女はずっと療養所に入っていて、物語のなかには直接は出てこない。彼女の存在は彼女がノアにあてて書いた手紙という形でのみ語られてゆく。
物語は過去と現在を行ったりきたりしながら、ノアがいかなる半生を送って孤独な老後を迎えるに至ったかを、やさしい光で照らし出すように描き出してゆく。僕はこの本を読んでいる間じゅう集中力を欠いていたので、残念ながら十分にそのよさを読みとれていないのだけれども、それでも終盤、ようやくノアとオーパルのなれそめが明かされる部分は、幸福感と悲しみのコントラストがあざやかで、とても印象に残った。心に人より重い荷を負ったものどうしの結びつきは、とても美しく、そして悲しい。
(Oct 18, 2008)