イングランド・イングランド
ジュリアン・バーンズ/古草秀子・訳/東京創元社(海外文学セレクション)
ジミ・ヘンドリックスが最後のライブ音源を残した場所として、ロック・ファンのあいだでは有名なワイト島。
ここにイギリス中の観光名所──バッキンガム宮殿とかストーンヘンジとか──のレプリカを作り、ロビン・フッドなどの歴史上の有名人物のそっくりさんを集めて──さらには国王一家まで移住させて――、イングランドの縮図ともいうべきテーマ・パークを作ろうという一大プロジェクトが持ちあがる。イングランドの粋をあつめたこの施設は《イングランド・イングランド》と名付けられ、世界中の旅行客の人気スポットとして繁栄をきわめることになるのだけれど、その一方でイギリス本国は凋落の一途を辿り……。
というような話を、プロジェクトの中心人物であるひとりの女性の生涯に絡めて描いた、きわめて現代的な風刺小説がこれ。
それにしても、イングランドについて語るとなると、僕にとっては絶対ロックとサッカーが欠かせないのだけれど、作者のジュリアン・バーンズは若いころにオックスフォード英語辞典の編纂にたずさわったという才人だけあって、そうした大衆的な趣味を持ちあわせていないようで、この小説にはビートルズもストーンズもマンチェスター・ユナイテッドも出てこない。僕が見落としていなければだけれど、たとえ出ているにしたところで、見落とすのも当然なくらい、ささやかな記述しかないはずだ。
でもって、アミューズメント・パークの話だといいつつ、そうした大衆文化的な視点を欠いている点が、やや残念なところ。一番の人気アトラクションがロビン・フッドに関するものだと云われても、僕なんかにはまるでぴんとこない。どうせならば、キャバーン・クラブやアビー・ロード・スタジオのレプリカがあって、そこではビートルズのそっくりさんが四六時中ライブを聴かせている、くらいの描写があると、もっとわくわくできたんじゃないかと思う。アビー・ロード・スタジオの屋上で、『レット・イット・ビー』 セッションを行っているビートルズを生で観られるとかいったらば、たとえそれが偽者だとわかっていたとしても、ちょっと見てみたい気がしません?
ということで、ジュリアン・バーンズの作品としては、おそらくもっともボリュームのあるこの小説。ブッカー賞候補になったというくらいで、出来栄えはかなりのものだと思うけれど、残念ながら僕にはやや頭でっかちすぎるような気がした。
(Nov 06, 2008)