ティンブクトゥ
ポール・オースター/柴田元幸・訳/新潮社
犬の表紙につられて、ついつい単行本で買ってしまったポール・オースターの長編小説。
この小説の場合、表紙の犬は単なる飾りじゃない。そう、主人公が犬なのだった。それも二本足で立ったり、人と口をきいたりしたりしない普通の犬。この小説は全編がミスター・ボーンズという老犬の一人称によって語られてゆく。
まあ、ミスター・ボーンズの場合、人間の云うことやること、ほとんどすべてを理解できるし、姿かたちが犬なだけで、思考回路は人のそれと変わらないので、普通の犬とは言えないかもしれない。でも、そういう意味では漱石の猫も同じだ。そう、云ってみればこの小説は、現代アメリカ文学における 『吾輩は猫である』 の犬バージョンとでもいった発想の作品なのだった。
そう思って両者の対比してみるとおもしろい。主人公が、かたや猫、かたや犬であることにより、両者はじつに対照的な内容になっている。本邦の猫がいかにも猫らしいシニカルさでもって苦沙弥先生の平凡な日常を観察していたように、この小説の主人公の犬もまた、いかにも犬らしい従順さでもって、飼い主(余命いくばくもない変わり者の老詩人)の放浪生活につき従っている。その徹底した人のよさ──もとい、犬のよさ──がこの小説の大きな魅力だと思う。漱石の猫が猫好きな人に受けるのかどうかはわからないけれど、この小説は確実に犬好きの人に受けそうな気がする。
ただし、ポール・オースターのほとんどの作品がそうであるように、この作品もストーリーはけっこう
僕はこれ、けっこう好きです。
(Dec 10, 2008)