ダロウェイ夫人
ヴァージニア・ウルフ/富田彬・訳/角川文庫
映画 『めぐりあう時間たち』 を近いうちに観ようと思っているので、やはりその前に元ネタとなっているこれくらいは読んでおくべきだろうという、きわめて非文学的な理由で手にとった作品。恥ずかしながら、文学部卒のくせして、ヴァージニア・ウルフを読むのはこれが初めてだった。
なんたって不勉強な僕は、文学手法としての「意識の流れ」については、知識としては知っていても、これまでその実態について明確なイメージを持っていなかったのだけれど、これを読んで、ああ、なるほどと思った。
この小説で作者のヴァージニア・ウルフは、主人公のダロウェイ夫人の行動を基点にしながら、自在に場面を切り替えつつ、彼女と彼女になんらかの形でかかわるさまざまな人々の内なる声を代わる代わる拾いあげてゆく。その様子はまるで、人の心を読む超能力を持った宇宙人が、巡りあうあらゆる人の頭の中を、尽きぬ好奇心をもって覗きまくっているみたいだ。まさかヴァージニア・ウルフを読んで、そんなSFチックなイメージを抱くなんて思ってもみなかった。なんだか少なからず間違っている気もする。
なにはともあれ、物語としては地味きわまりないのだけれど、そんな風にさまざまな人の心の内側をめまぐるしく行きかってみせるその筆の奔放さには、そこはかとないスリリングさと情緒的な豊かさがあると思った。エンターテイメント好きで文学的な素養の足りない僕の趣味からはほど遠いので、好きかと問われると困るけれど、それでもこの作品に文学的な価値があるというのはよくわかった。
(Apr 19, 2009)