デスペレーション
スティーヴン・キング/山田順子・訳/新潮社
スティーヴン・キングの作品は、どれも長いせいか、はたまた洋書っぽいバタ臭さを出すためか、A5版の、やや大きめの単行本になることが多い(最近はよく知らないので、多かったと過去形にするのが正しいのかもしれない)。なおかつ分冊になってしまうことも珍しくない。というか、分冊になるのがあたり前という印象さえある。
そんな中、この作品に関しては、珍しく四六版の一巻本で(まあ、姉妹編として 『レギュレイターズ』 が同時刊行されはしたけれど)、僕の好きな上下二段組(でもこのごろは老眼気味で小さな活字がきびしくなってきた)、なおかつ、グロテスクな童話風の表紙のイラストが気に入ったので、読んでみようかなという気になった。
とはいえ、定価が三千円とちょっと高価だったので、ふだんは読まないスティーヴン・キングにそんなに出していいものかと、ためらっているうちに文庫版が発売になり。そちらはデザインがぜんぜん違う上に上下巻で、なおかつ、そのころにはすでに単行本がほぼ絶版という状態に。これはいかん、単行本が手に入るうちにさっさと買っておかないとと最寄の大型書店へと足を運び、長いこと放置されていたらしく、やや
調べてみれば、その文庫版が刊行されたのが2000年の年末だ。つまり僕はそれ以来、十年近くこの本を放置していたことになる。おかげで、気がつけばこの作品は、いまや文庫版さえ絶版になっている(新潮社のような大手出版社から出る翻訳本の宿命)。おそらく、いまごろになってこの小説を読んでいるのは、遅れてスティーヴン・キングのファンになって、古本を買いあさっている人か、同じ作品を何度も読み返す、よっぽどのキング・マニアしかいないだろう。少なくても、定価で買った単行本を09年のいまになって読んでいるやつなんて、日本じゅう探しても僕くらいしかいないのではないかと思ったりする。まあ、だからどうしたという話でもないんだけれども。
ということでこれは、満を持して(というほどのこともなく)ようやく読んだ、スティーヴン・キングの十何年前の作品。
内容は無人のハイウェイを走っていた人たちが、図体のバカでかい警官に呼び止められ、いちゃもんをつけられて逮捕され、わけもなく殺されるという理不尽な導入部から始まるサバイバルもの。最初のうちは気が狂ったターミネーター警官による無差別殺人の話かと思っていたけれど──それでも十分恐かった──、しばらくすると神の声を聞く少年が登場して、敵がオカルトな存在であることがあきらかになり、物語はがぜん宗教的な色彩を帯びてくる。でもって、終盤はけっこう感動的になる。
僕はスティーヴン・キングを数えるほどしか読んだことがないので、これがこの人の作品として、どれくらいのグレードの作品なのかはわからないけれど、それでもビジュアル・イメージが豊かで迫力のある、とてもおもしろい小説だった。こういう作品をガンガン書いていれば、そりゃ映画化されることが多いのも当然だと思う。
(Oct 13, 2009)