犬の力
ドン・ウィンズロウ/東江一紀・訳/角川文庫(上・下巻)
今年の“このミス”海外部門第一位に輝いたという作品。普段からあまり“このミス”の順位は気にしていないんだけれど、ドン・ウィンズロウは前々から興味があったにもかかわらず読めずにいた作家だったので、ちょうどいい機会だから読んでみることにした。
この作品を映画でたとえるならば、『ゴッドファーザー』+『メキシカン』+『フェイク』といった感じ。メキシコ-アメリカ間での麻薬取引にかかわる両国のマフィアとそれを取り締まろうとする連邦捜査官の三つどもえの戦いを、30年以上にわたる年代記として描いてみせた大河小説で、前述のごとく、ついつい映画にたとえたくなるくらいに視覚的イメージが豊かだ。これならいつ映画化の話がもちあがってもおかしくないと思う(ボリュームがありすぎるのは問題かもしれないけれど)。なるほど、“このミス”第一位も納得の出来映えだった。
主人公をひとりに固定せず、メキシカン・マフィアのボス、アメリカン・マフィアの殺し屋、DEA(麻薬取締局)の捜査官の三人を並列に並べてみせた構成には、ジェイムズ・エルロイを思い出させるものがあるけれども、文体的にはあちらほど読みにくくない。それゆえあちらほどの重厚さもない。その分、エンターテイメント度は高い。この点はどちらを是とするかで、好みがわかれる気がする。少なくてもエルロイに心酔しているような人にはもの足りないかなという気がする。まあ、比較するようなものでもないけれど。
かくいう僕は、基本的に麻薬の話もメキシコの話もあまり得意ではないので、おもにメキシコを舞台に麻薬犯罪を描くこの小説は、コンセプトの時点ですでに趣味から外れているんだった(読み始めたとたんにあちゃーと思った)。それでも十分楽しめたから、やはり出来はいいと思う。せっかくだからこれを機にドン・ウィンズロウはもっときちんとフォローしたい。
(Apr 19, 2010)