2010年5月の本

Index

  1. 『ヘリックスの孤児』 ダン・シモンズ

ヘリックスの孤児

ダン・シモンズ/酒井昭伸・嶋田洋一・訳/ハヤカワ文庫SF

ヘリックスの孤児 (ハヤカワ文庫 SF シ 12-9) (ハヤカワ文庫SF)

 『ハイペリオン』 と 『イリアム』 両傑作SFシリーズからスピンオフした短編2作を含むダン・シモンズの短編集。
 表題作 『ヘリックスの孤児』 は 『ハイペリオン』 シリーズの後日談。短いなかにもあのシリーズのスケールの大きな世界観がしっかり再現されていて、とても読み応えがある。
 いっぽうの 『アヴの月、9日』 は 『イリアム』 に登場した「さまよえるユダヤ人」老女サヴィの若いころの話。サヴィ自身はあまり出てこないし、広大なるイリアムの世界のごく一部にスポットして、過去の一シーンを再現してみせた、みたいな作品なので、こちらはそれほどインパクトがない。
 いずれにせよ、どちらもシリーズ本編を読んでからかなりたっているので──最初に 『ハイペリオン』 に圧倒されたのがもう10年近く前になる──、記憶があいまいで「なんだっけこれ」みたいなのも多かった。いずれ本編ともども読み返したいものだけれど、なんたってボリュームがボリュームだからなぁ……。
 ということで、個人的に一番好きだったのは、それらのシリーズものの短編よりもむしろ、読みきりの 『カナカレデスとK2に登る』。これはカマキリ型の宇宙人とともにエベレストに登ることになった三人の地球人の話で、北極を舞台に過酷な自然との戦いをこれでもかと描いてみせた 『ザ・テラー~極北の恐怖~』 に通じる、とても迫力のある短編だった。ほどよくユーモアも効いているし、こういうのを書かせるとシモンズは上手い。
(May 18, 2010)