昔日
ロバート・B・パーカー/加賀山卓朗・訳/早川書房
パーカーの訃報を受けて、追悼とうたって前作『ドリームガール』を読んでから、気がつけば1年半も経っていた。感覚的には半年もたっていない気がするのに……。最近は本気で驚くぐらいに一年が短い。この調子だと、老人と呼ばれる日がくるのもそう遠い話じゃなさそうだ。ほんと、まいってしまう。
さて、このスペンサー・シリーズも最終作の『春嵐』が刊行されて、これを含めて残り五作ということが確定。第三十五作目となる本作では、スペンサーがなんと浮気調査を引き受ける。
現実の世界の私立探偵は殺人事件なんかとは縁がなく、もっぱら浮気調査ばかりしているというような話は聞くけれど、逆にいえば、小説の世界の探偵が浮気調査をすることって、まったくといってない。それも当然で、やはり他人の浮気現場の覗いてまわる出歯亀のような真似をしていたのでは、ハードボイルド探偵は名乗れなかろう。
でもこの作品でパーカーはスペンサーにそんな浮気調査をやらせている。スペンサーも普段は引き受けそうにないその仕事を率先して引き受ける。
それというのも、依頼人が同業者で──身分を隠しちゃいるけれど、司法関係者(FBI捜査官)なのはバレバレ──、浮気をしているらしいその妻というのが大学教授だから。要するにスペンサーは依頼人に『キャッツキルの鷲』のころの自分を重ね合わせて、強い共感をおぼえてしまうのだった。
もちろん、物語が浮気話だけで終わるわけがなく。スペンサーの仕事は序盤で片づいてしまい(それも悲劇的な形で)、そのあとにはスーザンを巻き込んでの奇妙な三角関係が持ち上がり、さらにはホークやヴィニィ・モリスの力を借りての銃撃戦が待っているという。もともと浮気調査から始まったとは思えない、派手な展開に。
あからさまに愛の大切さを語りつつ、一方で非合法なバイオレンスも描いてみせるという。これぞまさしくパーカーならではのハードボイルド・ワールド。こういうのもあと四作しか読めないと思うと、返すがえすも残念だ。
(Aug 27, 2011)