ブラッド・メリディアン
コーマック・マッカーシー/黒原敏行・訳/早川書房
タイム誌が選んだ「英語で書かれた小説のオール・タイム・ベスト百冊」のうちの一冊にも含まれているというコーマック・マッカーシーの出世作。
しっかし、これは手ごわかった。コーマック・マッカーシーの小説はいつでも手ごわいけれど、これはテーマがもっとも殺伐としているため、これまでで一番きつかった。
この小説でマッカーシーは十九世紀の開拓時代のアメリカとメキシコを舞台に、非正規のインディアン討伐隊の言動を描いてゆく。いちおうそのグループに加わった家出少年が主人公ということにはなっているけれど、彼が話の中心となるのは物語もすでに終わりに近くなってからで、それまでは、ただひたすらこの集団の残虐行為の数々が描かれる。
それもただインディアンを殺すってだけならばともかく、彼らは殺したインディアンの頭の皮を剥いでまわる。頭の皮を剥ぐなんて残虐行為はインディアン側の風習かと思っていたけれど、この小説では白人側も同じようにインディアンの頭の皮を剥いでいる(どうやらそれで殺した人数を証明するらしい)。想像するに痛々しすぎて、すんごく嫌だった。
そうした行為を繰り広げる討伐隊には、何ヶ国語をもあやつる巨体の判事がいて(全身に一本の毛も生えていないらしい)、この謎の人物が、『ノー・カントリー』のシュガーのような悪魔的存在として、物語に宗教的でオカルティックな味わいを加えている。この悪の化身のような人物の存在がこの作品の白眉たるところだろうと思う。
最後になっていきなり時間軸が二十年以上のスパンですっとんでしまうスタイルはその後の『平原の町』などにも通じるし、なるほど、これがマッカーシーの代表作のひとつだというのはよくわかった。でも好きかといわれると困ってしまう。そんな作品。
(Sep 13, 2011)