灰色の嵐
ロバート・B・パーカー/加賀山卓朗・訳/早川書房
かつて『悪党』でスペンサーを殺しかけた男、グレイ・マン(灰色の男)ことルーガーがふたたび敵として再登場するシリーズ第三十六作。
この小説は序盤のプロットがものすごい。なにやらセレブな富豪夫人からボディガードの仕事を頼まれたスペンサーが、スーザン同伴で、なかばバカンス気分でその人の娘の結婚式の開かれる島へと訪れると、そこになんとグレイ・マンが登場。マシンガンをもった部下を引きつれて、嵐の日の結婚式に乱入、花婿を射殺したうえで花嫁を誘拐するという暴挙に出る。
さしものスペンサーも多勢に無勢。なにより大切なスーザンの安全を第一と考え、手出しができない(いちおうスーザンを救い出すために敵をひとりやっつけはする)。かくして花嫁が誘拐されるのを手をこまねいて見送るしかなかったスペンサーが、汚名返上のため、ホークの助けを借りて誘拐事件の解決に乗り出す……というのが大まかなあらすじ。
今回は事件の当事者がセレブなために話が大ごとになって、なおかつグレイ・マンがかつて政府の仕事をしていたというので、スペンサーが懇意にしている政府機関の関係者がたくさん出てくる。警察のクワークとヒーリィ、FBIのエプスタイン、CIAのアイヴスら、司法関係の知人、総ざらいの感あり。なおかつ犠牲者が多いこともあって、スペンサーが調査におもむく先々の人々がいつになく協力的だ。こんなにスペンサーが多くの人に好意的な申し出を受ける事件ってのも珍しい気がする。
おもしろかったのは、これだけの大風呂敷をひろげておいて、クライマックスはもうスペンサーとグレイ・マンとの対決必至と思わせておいた割には、両者の最後の対決が思いがけない形をとること。序盤の傍若無人なまでの派手さ加減が嘘みたい。ヒューマニズムが前面に出た、パーカーらしいちゃぁ、らしい結末になっている。
おかげで印象的には、やや尻つぼみ気味かなぁという気がしなくもないけれど、スペンサー・ファンとしては、これはこれでありかなと思う。そんな作品。
(Nov 04, 2011)