V.
トマス・ピンチョン/小川太一+佐藤良明・訳/新潮社(全二巻)
新訳版で読むトマス・ピンチョン再読シリーズ第二弾は、尋常ならざるデビュー長編『V.』。
『メイスン&ディクスン』、『逆光』を読むのにさんざん苦労をしたことで、ピンチョンの作風にそれなりに慣れた気がしていたので、このデビュー作については再読でもあるし、もっと楽に読めるかと思ったら、やはりそうはいかなかった。再読にしてなお、よくわからない。
まぁ、章ごとの話はそれなりにわかるんだけれど、それが全体としてどういう物語になっているのか、この物語がなにをいわんとしているのか、読みこぼしまくりの感あり。やはり僕にはピンチョンは手ごわすぎる。
でも、それでいて、じゃあピンチョンなんか読まなくてもいいや、とはならないのは、この作家があまりに個性的であるがゆえ。やはりこの小説の文学なんだか、SFなんだか、スパイ小説なんだか、はたまた単なるホラ話なんだかわからない世界観は唯一無比だ。
今回再読してみて特に印象的だったのは、あちらこちらに見られる思いがけない残酷さ。それも謎のヒロインVの末期におけるグロテスクさとか、彼女(両刀使いらしいです)の恋人のバレリーナの悲惨きわまりない死に方とか、こと女性ばかりを対象にして、思わず目をそむけたくなるような残酷な運命が待ちかまえている。
これといった目的もなくただ世界をさまよっているだけのダメ男、プロフェインをはじめてとして、主要人物の男たちについてはこれといった悲劇が降りかからないのに対して、女性たちの大半がなんらかの悲惨な運命を背負わされている。この小説、読み方によっては、ダメな男たちが作り上げた無責任な世界に生きる女性たちの受難の物語として読めそうな気もする。
……ってそんな風に書くと殺伐とした物語みたいだけれど、決してそんなことはない。基本的にはユーモラスだし、ときにはぐっとくるような叙情性もある。この笑いも悲しみも残酷さもたっぷりと合わせ持った百科全書的な小説世界の濃さは、なかなかほかでは味わえない。
いずれは再挑戦して、次こそ隅々まで味わい尽くしたい。
(Jan 22, 2012)