ビギナーズ
レイモンド・カーヴァー/村上春樹・訳/村上春樹翻訳ライブラリー
レイモンド・カーヴァーの第二短編集、『愛について語るときに我々の語ること』は、初出にあたって編集者の手によって大幅な削除・改訂が行われていたのだそうだ。で、作者の死後に発見された原稿をもとに、その本をできるかぎりカーヴァーが意図した初期状態に戻してみせたのがこの短編集とのこと。このシリーズでカーヴァーの作品を読むのは、これが最後になるようだ。
ということで、この本には基本的に一度読んだ作品だけしか収録されていないはずなのだけれど……。
いやー、おぼえてねー。情けないくらいにおぼえてねー。
『ささやかだけれど、役に立つこと』のようなインパクトのある作品(それも後日、書き直されて別の短編集にも収録されているもの)はさすがに忘れようがないけれど、そういうのはほんの数編。あと、おぼろな記憶があるものもあるけれど、半分は初めて読むも当然だった。まったくなってねぇ。
そもそも、恥ずかしながら僕はこの短編集、表題作の『ビギナーズ』を読むまで、『愛について語るときに我々の語ること』ではなく、『頼むから静かにしてくれ』のオリジナル版だと勘違いしていた。なぜって、この本が分厚かったから。
この村上春樹翻訳ライブラリーでは、『頼むから静かにしてくれ』は二分冊になっていた(それに対して『愛について語るときに』は一冊)。今回の『ビギナーズ』はページ数的にその二冊分を一冊にしたくらいのボリュームなので、そのオリジナル版を出すにあたって、分冊をやめたんだろうと思い込んでいた。どれだけ中身がわかってないんだ、俺。
ということで、『愛について語るときに』の内容をおぼえていない僕としては、両者の違いを比較しようがない。でも、過去にその本を読んだときの自分の感想を見ると、「個々の作品がコンパクトで読みやすい」みたいなことを書いているので──そして今回この短編集を読むのに(個人的なタイミングの悪さも手伝って)やたらと気が乗らなかったのを考えると──、どうやら僕自身はカーヴァーのこのオリジナル・バージョンよりも、敏腕編集者の手により切り刻まれた初出版のほうが好きみたいだ。なんとなく申し訳ない気がする。ま、いつの日か余裕があれば、両者をつづけて読んで、もう一度ちゃんとくらべてみたい。
それにしても、自分が失業するかも……ってタイミングで読むには、カーヴァーの小説はどうにもふさわしくなかった。まいった。
(Mar 12, 2012)