説得
ジェイン・オースティン/中野康司・訳/ちくま文庫
オースティンの死後に刊行されたという遺作。僕のひとりジェイン・オースティンの読書会もこれでミッション・コンプリート。ちょっと名残り惜しい。
この小説の主人公のアン・エリオットは準男爵家の次女。十代のころに婚約をかわした男性がいたにもかかわらず、相手に財産がないために周囲の反対にあい、なかでも母親代わりと頼りにしていた婦人の「説得」に負けて、婚約破棄したという過去を持つ。で、その恋を引きずったまま、十年近くを独身で過ごしている。
物語は彼女の一家の現状──見栄っ張りの父親の借財がかさみ、かなり困ったことになっている──を紹介したあとで、そんな彼女の前にかつての恋の相手、ウェントワース大佐がふたたび現れるというあたりから本題に入る。
お相手のウェントワース大佐は海軍で出世して、いまやいっぱしの財産家となっている。しかも独身で、そろそろ結婚を考えているという。ただし、彼は若いころの失恋の痛手をいまだに引きずっていて、アンとはまともに話をしようとしない。
もちろん彼女としても、かつて自分から振った相手にいまさら言い寄るわけにはいかない。──ということで、彼女はみずからの恋心を隠したまま、昔の恋人が周囲の若い女性と繰り広げる恋愛模様をじっと見守りつづけることになる。
とはいえ、主人公アンはこの小説の中ではもっともよくできた女性として描かれている。それこそ、まもともな人は彼女だけしかいないってくらいの描かれようなので、最終的にウェントワースが彼女のもとに戻ってくるのは時間の問題。さて、いかなる形でこの恋が成就するのか。──ってのが、読みどころかと思う。
この小説、オースティンの作品にしては、ユーモアは控えめな印象。アンの恋路を邪魔する徹底的に性格の悪いライバルなども出てこないし、俗物の極みなアンの父親や姉は出番が少ない。主人公自身も二十七という分別ざかりな年齢設定のため、エマやキャサリンのような苦笑を誘う言動はまったくない。ほんとによくできたお嬢さん。
ということで、小説としてのボリュームも控えめだし、主人公の性格をそのまま反映した、分別のある、落ち着いた恋愛小説という印象だった。でもこれはこれでおもしろい。ジェイン・オースティンにハズレなし。
これでひと通りの作品を読み終えてしまったので、なんだかもう一度『高慢と偏見』あたりを読み返したくなってしまった。
(Apr 09, 2012)