めくらやなぎと眠る女
村上春樹/新潮社
村上春樹の英語版アンソロジーの逆輸入版、第二弾。
前作『象の消滅』のときにはあまり気にしていなかったけれど、このシリーズはとてもコスト・パフォーマンスが高い。なんたって、この本には『東京奇譚集』がまるごと収録されている。その部分だけで百五十ページ。全体では五百ページだから、要するにこれ一冊でオリジナルの短編集三冊分くらいの分量ということになる。それで千四百円だっていうんだから、これはお買い得でしょう。ソフトカバーながら、日本の本には珍しいバタ臭い装丁も魅力的だし、翻訳短編小説のアンソロジー『バースデイ・ストーリーズ』のために書き下ろされた『バースデイ・ガール』や、全集のために書き下ろされた『人喰い猫』も収録されているし(これがなかなかいい)、村上春樹の短編集はすべて読んでいるという人でも、とりあえず要チェックの一冊ではないかと思う。
……といいつつ、僕は若いころ、あまり村上春樹の短編って好きではなかったのだけれど──長編よりも作為的な部分が不自然にめだつ気がして、いまいちなじめなかった──、こうやって新旧の短編をまとめて読んでみて、あらためてその感じを思い出してしまった。いい短編もたくさんあるんだけれど、たまにこれは好きになれないなぁって作品もある。おもしろくないというのではなく、なんとなく好きになれない、という感じ。
どこがどうとかは分析できないし、する余裕もないけれど、いずれにせよこの感じがあるから、僕は村上春樹を全面肯定できないでいるんだろうなと思った。
(May 20, 2012)