村上春樹 雑文集
村上春樹/新潮社
村上春樹が書いたエッセイのうち、これまで単行本には未収録だったり、人の本の解説などのために書かれたもの、文学賞の受賞スピーチ原稿などをまとめた本。帯にあるように、イスラエルの文学賞を受けた際に大きな話題となったスピーチ、『壁と卵』が収録されているのが、いちばんのセールス・ポイントだろうと思われる。
寄せ集めの本ではあるけれど、基本的に人から頼まれて書いたもの──外部のと接点がはっきりしたもの──が多い分、『村上朝日堂』のようなプライベートなエッセイよりも、春樹氏の人となりがより強く出た本になっている気がする。とくに音楽についてのエッセイを集めた章などは、これまで埋もれさせていたというのがもったいなく感じられるくらい、読みごたえがあるものが多い。僕個人の印象では、これまでに読んだ春樹氏のエッセイ集の中でも、もっとも刺激的な作品のうちのひとつだった。
村上春樹という人はあまり社会と積極的に接触している印象はないけれど、それでもこの本を読むと、この人はこの人なりのスタンスを守りながら、方々でなかなか有意義な人間関係を築いているんだなと感心させられる。なかでも和田誠氏と安西水丸氏との交流はその最たるものだと思うけれど(なんと、この本の表紙はおふたりの共作とのこと)、巻末に寄せられたご両人による対談が、これまたとてもおもしろい。この本はその部分だけでも十分読む価値があると思います。
(Apr 07, 2013)