時の娘
ジョセフィン・テイ/小泉喜美子・訳/早川書店/Kindle版
かつて文庫版で読んで大いに感心した歴史ミステリの傑作をKindle版で再読。
僕は世界史には疎いし、シェイクスピアもほとんど読んだことがないので、この本を読むまで、リチャード三世という人がどれだけ悪名高いのか、知らなかった。みずからが王様となるために、王位継承者である甥の幼い王子ふたりをロンドン塔に閉じ込めて、人知れず暗殺したと言われていると聞いて、そういやそんな話を耳にしたこともあるかなぁ……と思うくらい。そんな僕をして十分に楽しませてくれるのだから、この小説はやはり素晴らしい。
物語は入院中のスコットランドヤードの警部が、ひょんなことからリチャード三世の肖像画を目にして、「本当にこの男がおさない子供たちを殺すような悪辣非道なことをしたんだろうか?」と疑問を持つというところから始まる。病院のベッドを離れられない彼が、ベッドに寝たきりのまま、知人のつてを頼って、歴史書を取り寄せ、当時の資料をかき集めて、何百年も昔の事件の真相にせまってゆく……というのが大まかな筋。
話が進むにしたがって、初めのうちは漠然とした歴史上の人物であったリチャード三世の人物像が、徐々にはっきりとしてゆく。それとともに、史実の陰に隠ぺいされていた真実があきらかになる。まぁ、あくまで昔々の話だから、どこまでが本当かはいまさら確かめようがないけれど、少なくても登場人物と読者の胸のうちでは、はっきりとする。それが大事。それこそがミステリの醍醐味。
まぁ、僕も年をとったせいか、今回は初めて読んだときと比べると、冒頭で開陳される歴史の教科書的な説明や、次々と出てくる人名──エドワードやリチャードがたくさんいる──がすっきりと頭に入ってこなくて、きちんとすべてを理解したといい切れないところが情けないのだけれど、それでもこれが素晴らしいミステリだという思いは変わらなかった。
できればこういう本は文庫本や電子書籍などではなく、ハードカバーでゆっくりと読みたいと思う。そんな作品。
(May 03, 2013)