書楼弔堂 破曉
京極夏彦/集英社
京極夏彦の新シリーズで、明治時代を舞台に「本とは墓場である」という風変わりなモットーの古書店・
京極夏彦が描く古本屋の話──とくれば、誰もが「京極堂との関係は?」と思うのが自然の流れ。
でもまぁ、基本的には関係ない。
ただ、まったく関係ないということもなくて、最後の短編には中禅寺という僧侶が出てくるし――とうぜん彼の人のお祖父さんでしょう――、『後巷説百物語』の登場人物がフィーチャーされた話もある。つまり過去の京極ワールドとゆるくリンクしている。それだけでもファンとしては読まないわけにはいかない作品。
内容的には、山田風太郎の明治小説シリーズを京極流に換骨奪胎したというような感じ。だいたいどの話も、歴史に名を残した偉人が人知れぬ悩みを抱えてその古書店を訪れて、店主のお薦めの本によって救われる、というパターンになっている。
さて、どんな偉人が出てくるか――というのが、この本のいちばんの読みどころだと思うので、登場人物についてはあえて書かない。どの人物も最初は名前を隠した状態で登場するので、ははー、この人はあの人だな、とか思いながら、にやりとする、というのがこの作品のおもしろみのひとつだと思う。まぁ、有名とはいっても、日本史に疎いと、誰それって思うようなレベルの人物が多い気はするけれど。
あと、この作品で重要なのは、本屋がなかった時代があったという事実を知らしめている点。
僕らは本屋で本を買って読むという行為を普通のことだと思っているけれど、そうした行為があたり前になるのは、明治時代に入ってからのことで、それ以前には個人が本を所有するという概念自体がなかったんだと。僕ら庶民があたり前に本を読めるいまの時代はなんて幸せなんだと。この本はそのことを教えてくれる。
名作と呼べるほどの完成度ではないけれど、本を読むことに幸せを感じる人ならば、ご一読をお勧めしたい作品。
(Feb 03, 2014)