火曜クラブ
アガサ・クリスティー/福島正巳・訳/早川書房/Kindle版
ミス・マープル初登場の連作短編集。単行本としての刊行は長編『牧師館の殺人』のほうが先だけれど、発表はこの短編集の前半に収録された短編のほうが先とのこと。
マープルさんが「火曜クラブ」なるところで謎解きをしてみせる話だというので、近所の叔母さんたちが集まって井戸端会議に華を咲かせているところで、ミス・マープルが未解決事件の謎を解いてみせて、「あらま、マープルさんたらすごいわね」とか言われたりするような話を想像していたら、ちょっと違った。
集まっているのは近所のおばちゃんたちではなく、マープルさんの甥で作家のレイモンドの知人たち。女流画家に元警視、弁護士に牧師など、要するにそれなりにセレブな人ばかり。
とはいえ、そんな人たちが寄り集まってなお解けない謎をマープルさんがさくっと解決して、「このおばあさんはいったい何者?」と思わせて終わる、というの構図なので、まぁ、あたらずとも遠からずかなと。
短編集としておもしろかったのは、タイトルとなっている火曜クラブ――とはいっても、きちんとしたクラブではなく、単なるおしゃべりの夕べに思いつきで名前をつけただけのもの――での話が前半で終わってしまうこと。後半はその席でのマープルさんの推理力に感銘を受けた元警視が、知人宅でのディナーにマープルさんを招待して、また同じことをする、という構造になっている。
基本、すべて過去に起こった事件を登場人物のひとり一人が語り聞かせる、というスタイルであるため、どうにも単調な印象になりがちなところを、途中で舞台とシチュエーションを変えることで、うまく引き締めている。さらには、最後に一遍だけ、現在進行形の事件を加えてみせたのもうまいと思う。
(May 14, 2014)