パズル・パレス
ダン・ブラウン/越前敏弥、熊谷千寿・訳/角川書店/Kindle版(全二巻)
『ダ・ヴィンチ・コード』の作者、ダン・ブラウンのデビュー作。
NSA(アメリカ国家安全保障局)というところが国民には内緒で開発していた、どんな暗号でも数分間で解読できてしまうスーパーコンピュータ(といっても、単に膨大な量のマシンを並列稼働させたものみたいだけれど)が、天才ハッカーの開発した絶対に解読不可能な暗号化アレゴリズムのために大混乱に陥るというお話。
歴史の裏に暗号を見いだすことにかけては天才的なダン・ブラウンが、デビュー作では歴史とはまったく関係のないところで、やっぱり暗号絡みの小説を書いていたというのが、まずはおもしろい。
その点にかぎらず、わずか一日たらずのあいだに、アメリカの存続にかかわるような驚天動地の大騒動が巻き起こるという極端な話の持っていきかたも、やたらと人の命がそまつにされる展開も、まごうかたなくダン・ブラウン印。つまりは、話としてはおもしろいんだけれど、あまりテイスト的には感心できない。
とくにクライマックスの素数にまつわるパスワードの謎は、あまりに陳腐で興ざめもはなはだしかった。そんなん、気がつかない方がどうかしてるって。
──とはいいつつ、そこに意外性のある伏線(被害者の指にまつわる身体的障害)をこっそりしのばせていたりするところには、ちょっぴり感心させられた。ダン・ブラウンって、なんだかんだ、そういうところは上手い。
まぁ、なんにしろ、全体的にはいつも以上にディテールの粗がめだつというか、設定に無理があるというか。その辺はやはりデビュー作だけあって、改善の余地ありって印象だった。
それにしても、世紀の暗号化ロジックを発明してみせた日本人の天才ハッカーの名前がエンセイ・タンカドって。いったいどんな日本人だ。
(Jul 04, 2014)