セロニアス・モンクのいた風景
村上春樹・編訳/新潮社
気がつけば、僕がジャズを聴くようになって、はや十年。いまだジャズ・ファンを名乗るには程遠いすちゃらかリスナーだけれど、それでもわが家にあるジャズのCDもすでに百枚近い。そのうち、もっとも数が多いのがセロニアス・モンク。数えてみたら十五枚あった。
そのセロニアス・モンクについて書いた本を村上春樹氏が出すとなれば、それは、おおっと思うのが当然。――ということで、とても楽しみにしていた本だったのですが。
手に取るまで、僕はその内容を思い違いしてた。春樹氏が全編にわたって熱くモンクの魅力を語るような本を想像していたら、そうではなく。これは春樹氏がジャズ・ファンとして長年にわたって収集してきたジャズ関係の洋書や雑誌から、モンクに関する文章を寄せ集めて翻訳したアンソロジー。
ということで、春樹氏自身が書いた文章は、『ポートレイト・イン・ジャズ』に収録されたモンクの章に手を加えたものと、最後の「私的レコード案内」とあとがきだけ。そこんところは、やや拍子抜けした。
で、そういう性格の本なので、これを読んでもモンクの人生やその音楽の全貌を理解するのは難しい。春樹氏が断っているように、同じ話が繰り返されることも多い。春樹氏にとってモンクがどれこど重要なアーティストなのかも、いまいち伝わってこない(わざわざその人を対象に一冊の本を出す時点ですでに特別だという話もある)。
ただ、さまざまな人たちがさまざまな立場、それぞれの違った視点からモンクを語っているがゆえに、そこから多角的に浮かび上がってくるモンクの人物像には独特の味わいと立体感がある。ある種3D的というか。個人が書いた伝記や評伝では、こうした感覚は味わえないじゃないだろうか。そこがこの本の魅力だと思う。
裏表紙に使われている故・安西水丸氏のイラストにまつわる裏話にもじーんときます。
(May 10, 2015)