鬼談
京極夏彦/角川書店
『幽談』『冥談』『眩談』につづく京極夏彦の「」談シリーズ第四弾。
この作品には目次を見ただけでわかるこれまでとの違いがある。それは各短編のタイトルが「鬼」で始まる二文字熟語で統一されていること。つまり、今回の本はその名のとおり、「鬼」についての本なんだと最初から宣言してある。
だからといって、いわゆる鬼──金棒をもって虎柄の腰巻をつけたカーリーヘアの赤い巨漢──が出てくるかといえば、やはりそんなことはないところが京極夏彦の京極夏彦たるゆえん。
ここでの「鬼」は「人」の対義語としてのそれであり、見かけは人と同じようでありながら、決して人ではない
その点、特別テーマを設けることもなく、「怪談」的な短編を集めた感じだったこれまでの作品──少なくても僕はこれといった統一性を感じていなかった──とは若干、方向性が変わっていると思った。
たとえば、これまでの作品には、庭に埋まっている手首とか、天井にはりついたおじいさんとか、シリミズさんとか、なにそれっていう怪しげな存在がちらほら出てきたけれど、この本にはそうしたものはいっさい登場しない(まぁ、幽霊らしき人は出てきますが)。「鬼」をテーマにかかげながらも、それを直接描くのをよしとせず、「鬼的」なものを描くという姿勢で一貫しているため、逆に明確に形のある怪異を描けなかった、ということなのだと思う。
おもしろいのは、そんなふうにタイトルやテーマが統一されている一方で、収録作品のスタイルは逆にこれまで以上に多彩であること。わずか二ページしかないショートショート(『鬼想』)や、上田秋成の『雨月物語』を意訳したらしき作品(『鬼情』『鬼慕』)などがあったりする。
そんなふうにバラエティ豊かな作風でもって「鬼」という言葉が喚起する不気味さや禍々しさを浮かび上がらせてみせたところが今回の作品の特徴。いや、なかなかおもしろかったです。
そういや、冒頭の『鬼交』は十年以上前に出た『エロティシズム12幻想』という文庫本のアンソロジーに収録された作品の再録だった(あれ、これって読んだことあるかも……と思った自分自身の記憶力を自画自賛)。新作の短編集が遠い昔に発表した作品の再録で始まるってのもちょっと珍しい気がする。
(Jun 03, 2015)