落語百選 秋
麻生芳伸・訳/ちくま文庫(Kindle版)
サッカーのときにも書いたけれど、この頃はなぜだか気力の低下いちじるしく、あまり難しい本は読む気になれないので、なるべくさらっと読めて楽しそうな本(そして安い本)ってことで、Kindleストアのバーゲンで見つけて読んだ落語本。
『落語百選』というタイトルだけれど、もともとは文庫本の電子化なので、これ一冊に百編も入っているわけはなく、春・夏・秋・冬と題した四分冊になっている。これはそのうちの『秋編』。
秋というからには第三巻なのだろうと思うけれど、それにしては、『目黒のさんま』、『寿限夢』、『時そば』といった、日本人ならば誰でも知っているような──これより有名な落語がほかにあるんだろうかと思ってしまうような──古典落語のとびきりの代表作が収録されているので、本当にこれって三冊目かなとちょっと疑問。
あ、でも「日本人なら誰でも知っている」とか書いたけれど、そういや、うちの娘はこのあいだ、目黒のさんま祭りのニュースを見て、「目黒のさんまってなに?」とか言っていた。考えてみれば、僕もふだんは落語なんてテレビでもまず観ないし、そんな家庭で育てば、子供が落語を知らないのも当然。うーん、なんかちょっと日本人として間違っている気がしてきた……。
それはともかく、落語は基本口承文化なので、正規に書き残された正典のようなものはないらしく、この本も編者の麻生芳伸という人が、著名な落語家の語りをもとに書き起こしたものらしい。
なので、落語といえば江戸時代というイメージに反して、枕の部分の語り限定とはいえ、「電車通り」とか「マラソン」とかいう言葉がでてくるものがある。これにはちょっとびっくり。おぉ、これってじつはあまり古くないんだなと思った。
あと、本文は落語の語りを「ずゥッと歩いていくッてえと」みたいな調子で再現していて、これがあまり読みやすくない。難しいってわけではないけれど、読みやすくもない。さらっと読みやすい本をってんで手にしたにもかかわらず、あまり読みやすくないという。なんだかその点でも間違っている気がした一冊。でもまぁ、それなりに笑いながら楽しく読ませていただきました。
そういや、京極夏彦が書き直した『死神』のオリジナル(?)も収録されているのだけれど、これは京極氏のリライト版のほうがおもしろかった(とかいいつつ、「あ、この話、知ってる」とか思った大馬鹿者)。まぁ、記憶力のあやしい京極ファンの贔屓目かもしれません。
(Oct 20, 2015)