ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い
西寺郷太/NHK出版新書 (Kindle)
ノーナ・リーヴス(名前しか知りませんでした。失礼)のボーカリスト・西寺郷太が、『ウィ・アー・ザ・ワールド』を糸口にしてアメリカン・ポップスの歴史を紐解いてみせた音楽評論本。
この本の特徴は『ウィ・アー・ザ・ワールド』という──楽曲としてよりも、むしろ音楽イベントとして──アメリカ音楽史上に大きな影響を与えた一曲を軸に据えて、アメリカ音楽の歴史を語り聞かせてみせた点。
MTV世代の著者(僕より七つ年下)は、アメリカン・ポップ・ミュージックの重要要素のひとつは映像であるという考えでもって、その原点を無声映画の誕生にまでさかのぼって語り始め、そこからロックンロールの誕生をへて『ウィ・アー・ザ・ワールド』に至るまでのアメリカ大衆音楽の歴史を紐解くことに、この本の前半を費やしている。
そしてマイケル・ジャクソン、ライオネル・リッチー、クインシー・ジョーンズらの黒人主導で実現した『ウィ・アー・ザ・ワールド』は、それまでの白人至上主義だった音楽シーンが劇的に変わった事実の象徴だとして、その重要性を大いに説いてみせる。
『ウィ・アー・ザ・ワールド』の集合写真に写っているメンバーの数が、実際にレコーディングに参加した人数よりも二人少ないという事実に気がついた著者が、丹念に写真を確認していって、足りないのが誰と誰かを突き止めて、その理由を推察してみせるくだりには、ある種の探偵小説のようなおもしろみがあったりもする。
そんなふうに、単なる音楽評論に留まらず、音楽に詳しくない人にもわかるようにと、その歴史をていねいに語ってみせたうえで、ミステリっぽいおもしろさまで感じさせてくれるという。そんなこの本はとても個性的で、ミュージシャンが余技で書いたというレベルを超えたおもしろさがあった。なかなか感心しました。
タイトルに「呪い」なんて言葉をつけたのはどういうわけか?――というのは、読んでのお楽しみ。まぁ、なるほどねと思う一方で、ちょっとこじつけじゃん? と思わないでもなかった。なんたって盛者必衰は平家の昔からの世の習いですので。
なんにしろ、この次回作が『プリンス論』だというんならば、それもぜひ読まねばなりますまい。
ちなみに、この本の冒頭には、始まったばかりの Apple Music に関する言及がある。つまりこの本は、まだ発売になってから、半年もたっていないわけだ。Kindle のディスカウントで手に入れたので、もっと前の本かと思っていた。
出たばかりの本が(電子版とはいえ)定価以下で手に入っちゃうという。『ウィ・アー・ザ・ワールド』から今年ではや三十年というのもあわせ、なんだかすごく時代の変化を感じさせる一冊だった。
(Nov 15, 2015)