伊豆の踊子
川端康成/角川文庫(Kindle版)
いい歳をして、生まれて初めて川端康成を読んだ。
印象は、よくも悪くも、これぞ日本文学って感じ。
『伊豆の踊子』(短編だってことさえ知らなかった)の淡いエロスと旅情性はいいと思ったけれど、その次の『青い海黒い海』が心中話だったのが、個人的には駄目。
なぜ死のうと思うかな。僕は日本文学に連綿とつらなる自殺の美学みたいなものがまったく理解できない男なので、ましてや女性を道連れに死のうとして、自分だけ死にそこねたというような話に感動しろといわれたって無理。
死んで花実がなるものか。僕が文学を必要としているのは、生きるためだ。人並み以上の才能を持ちながら、自ら命を絶つような生き方には、どうにも同調できない。
まぁ、とはいえ、その後の作品を含めたバラエティ豊かな世界観はなかなか印象的だった。妻の姉との猥雑な三角関係を描く『驢馬に乗る妻』、家禽の思い出を語ったエッセイ調の『禽獣』、オカルト色の強い『慰霊歌』、ピカレスクものの『二十歳』、乙女の三角関係を書簡小説として読ませる『むすめごころ』、犯罪小説的なニュアンスもある異相の恋愛小説『父母』と、どれも作品としては興味深く読めた。
あと、露悪的というか、偽善者ぶらず、あえて自分の品性の低さをさらけ出しているような感触があるのも興味深かった。そういう意味では、少なからず感じるところのあった一冊。いずれまた読みなおしてみたい気もする。
ちなみに和てぬぐいの柄をモチーフにしたらしい角川文庫のこのシリーズ。表紙がとても気に入って何冊かは文庫本を手に入れたのだけれど、僕がいいなと思ったのが、すでに最初のキャンペーンが終わって二、三年が過ぎてからだったので(始まったときに気づけ、俺)、この作品はすでに表紙が変わってしまっていた。さもなければ、これもちゃんと文庫本で欲しかったんだけれど、時すでに遅し。新しい表紙は気に入らないし(マンガ的なイラストをあしらったやつで、どう考えたって作品のイメージとまったく合わないと思うんだけれど……)、たまたま電子版がディスカウント中でやたらと安かったので(なんたって百九十円台)、結局電子版で読んでしまった。同じシリーズの『雪国』は文庫を買ったので、そちらもそのうち読む予定。
(Dec 20, 2015)