自来也忍法帖
山田風太郎/角川文庫(Kindle版)
これのひとつ前に読んだ『軍艦忍法帖』はシリーズ初期の作品だったけれど、さすがに前半戦のほうが出来がよくて入手しやすいからか、残っている未読の忍法帖は、ほとんどが後期の作品だった。ということで、これはシリーズ第十五作目。
いやしかし、エログロ・ナンセンスは忍法帖の代名詞のようなものだけれど、この作品はある意味その極み。某藩の若君が将軍への謁見の席で精液たれながして怪死するという冒頭から、もう全編シモネタばっかりな印象。
五人のくノ一と交わった相手の男を文字通り昇天させる「忍法精水波」。この小説の中心となるのがこの忍法で、これを某藩に婿入りしてきた将軍の息子にかける、かけないって話が延々とつづくのだった。
要するに全編セックスするしないって話なわけです。オフィスや電車のなかで読んでいると不謹慎な感が否めず、なに読んでんだろう俺……って羞恥心が湧いてきてしまうような、なんとも困った作品だった。
そういえば、『風来忍法帖』も「姫様、犯したる!」って話だったけれど、ある意味、これはあれの男女が逆転したバージョンというか。
でも、あちらでは狙われているのが美しき姫君だったからいいけれど、こちらは口がきけず、知恵のたりない将軍家の若様という困った設定。下半身をさらけだしたままで平然としているような人だから、見苦しいことこの上ない。
あまりの駄目っぷりに、婿入りした先のヒロインのお姫様からは愛想を尽かされ、夫婦になったにもかかわらず、床入りを許してもらえない。この仮面夫婦の関係がそれから先どう発展するかというのが、この小説の読みどころのひとつかなと。
あとひとつ、くノ一に狙われる新婚夫婦を守る謎の忍者が登場する。タイトルにもなっている「自来也」を名乗るこの人物は何者か──というミステリ仕立てになっているところがこの作品のもうひとつの特徴。
要するにナンセンスなエロ話がたっぷりのミステリ時代劇といった趣向の作品だった。
基本的にはナンセンスで下品きわまりない話だし、それほど出来がいいとも思わないのだけれど、それでいて意外と読後感が悪くない。そこんところがやはり忍法帖だよなぁと思う。
(Mar 06, 2016)