ウィズ・ザ・ビートルズ
松村雄策/小学館/Kindle版
『ロッキング・オン』創刊メンバーで、大のビートルズ・ファンである松村雄策氏がビートルズの全アルバムを発売当時の思い出とともに語ってゆくエッセイ集。
僕が初めて『ロッキング・オン』を読んだのは、かれこれ三十年ほど昔のことで、そのころもっとも好きだったライターのひとりが松村さんだった。渋谷陽一氏をはじめとするほかのライターが抽象的で難しい文章を書いているなかにあって、松村さんはひとりカジュアルな言葉でもって、等身大の音楽ファンとして気取りのない文章を書いていて、とても親しみが持てた。
そんな松村さんが大好きなビートルズのデビュー五十周年を記念して書いたのがこの本。さぞや力のこもった内容になっているのだろう……と思ったら、そんなことがない。その語りはいたってあっさりとしている。そのへんがこの人らしい。
読んでいておもしろかったのが、「LP『ヘルプ!』はイギリスでは八月六日に発売されて、初登場の八月十四日から九週間第一位になっている」みたいなヒットチャートの順位に対する言及がすべての作品に対して徹底していること。僕自身はあまりチャートの順位を気にするタイプではないので(極端な話どうでもいいと思っている)、そういう情報をこまめに書いている松村氏の姿勢がちょっと意外だった。松村さんたちの世代にとっては、好きなバンドのヒットチャートの順位に一喜一憂するのが、音楽を楽しむ上でなくてはならない楽しみのひとつだったのかもしれない。
まぁ、そんな風にチャートの順位を細かく記しているわりには、作品ひとつひとつに関してのデータや記述はそれほど細かくなく、ざっくりした内容に終わっているので、ビートルズについて詳しく知りたいという人にはあまり向かないと思う。あと、ビートルズとは関係のない松村氏の個人的な思い出話もけっこう盛り込まれているので(僕の娘が通っている高校のとなりの高校に通っていたらしい)、松村雄策って誰?と思ってしまうようなビートルズ・ファンにとっても、なにこれ?って感じの本のような気がする。
ということで、ビートルズというよりは、松村さんに対する興味が優先する読者向けといった印象。
『ウィズ・ザ・ビートルズ』というタイトルのとおり、松村雄策という人が“ビートルズとともに”どう生きてきたかを語った一冊。日本という世界の果てで、ビートルズをリアルタイムで聴いていた一ファンによる六十年代の回顧録。
(Jul 03, 2016)