僕の名はアラム
ウィリアム・サローヤン/柴田元幸・訳/新潮文庫(村上柴田翻訳堂)
村上柴田翻訳堂の刊行記念に柴田元幸氏がみずからの新訳作品として選んだ、ウィリアム・サローヤンの連作短編集。
僕がサローヤンという人の作品を読むのは、学生時代の『ヒューマン・コメディ』以来二冊目となるのだけれど、そちらの内容はまったくといっていいほど記憶にない。それほど好きだった記憶もない。だからこの本にもそれほど期待していなかったのだけれど。
ところがどっこい、これがすこぶるよかった。アラム・ガログラニアンというアルメニア系アメリカ人の少年が、叔父や友人ら、自ら所属する共同体の仲間たちについての逸話を一話ずつ語ってゆくという内容で、短編というよりはショートショートと呼んだほうがよさそうな短めな作品が多い。なので一編一編はさらりと読めて、それでいてユーモラスな話のなかに、そこはかとないペーソスが漂っている。そこがなんともよかった。
決して文章が上手いという感じでもないんだけれど、そのでこぼこした語りっぷりには人のよさそうな憎めない味わいがある。まさに『憎みきれないろくでなし』と呼ぶにふさわしい人たちがたくさん出てくる、いわばアメリカ文学版の『男はつらいよ』と形容したくなるような短編集。
いろいろといい話がたくさんあるんだけれど、僕がもっとも好きだったのは、冬の川でひと泳ぎした少年たちと彼らの奇行に大喜びする雑貨店主とのやりとりが楽しい『三人の泳ぎ手』。この短篇、最高だと思う。
それにしても、村上・柴田のご両人が選んだこのシリーズ第一期の二作品、どちらもローティーンの少年少女を主人公にした作品でありながら、その作風がまったく正反対といってもいいくらいに違うのが興味深かった。
(Aug 15, 2016)