最も危険な場所
スティーヴン・ハンター/公手成幸・訳/扶桑社/Kindle(全二巻)
アール・スワガー三部作の第二弾。
この作品で序盤の主役をはるのは、アールではなく弁護士のサム・ヴィンセント。彼が消息不明の黒人の追跡調査を依頼されるオープニングから、物語は不穏な空気をはらみつつゆっくりと立ちあがる。
ただ、正直なところ、このサムさん主役の前半戦に僕はいまいち乗りきれなくて、なかなかページが進まなかった。
それでも、サムさんが出向いた南部の僻地の刑務所で不当な扱いを受けて拘束され、そんなサムさん救出のためにアールが出動してくるところから、物語はがぜんテンションが上がっておもしろくなる。
この作品で意外性があったのは、そのサムさん救出劇がけっこう早い時間帯で解決してしまって、そのあとの展開が読めなかったこと。少なくても上巻のあいだくらいは、僕には物語の着地点が見えなかった。
まぁ、悪辣非道な刑務所が最初から絶対悪として設定されているので、勧善懲悪な展開でそいつらと戦うのがクライマックスだということ自体は最初からあきらかなんだけれど、どうやってそこにたどり着かせるつもりか、作者の意図が読み切れなかった。
そしたらば、下巻にいたり、ようやく全体像があきらかになる。そして、あぁ、これが書きたかったのかと納得する。序盤の「これはなに?」感が嘘のように、クライマックスには時代錯誤でド派手なガン・アクションが待っていた。
要するにこの作品は、スティーヴン・ハンター版の『七人の侍』でした。いや、ガンマンの話だから『荒野の七人』か。
とにかく後半は百パーセントそういう作品。能天気すぎるくらいのガンマン礼賛ぶりにちょっと違和感を覚える部分もあったけれど、それでもまぁ、エンターテイメントとしては十分におもしろかった。
それにしても、この人の作品って、いつでも悪役のキャラがきちんと立っているところがいいと思う。かつてのラマー・パイにせよ、この小説のビッグ・ボーイにせよ、好きとは言えないまでも、ただ単に嫌いっていって済ませられない悪役としての味がある。
(Nov 13, 2016)