虚実妖怪百物語 序・破・急
京極夏彦/角川書店(全三巻)
京極夏彦がみずからの知人・友人・関係者各位に、自分自身までを登場人物にしたてて描く、奇妙奇天烈な妖怪小説・全三巻。
『帝都物語』の怪人が現代日本を滅ぼすために暗躍し、日本中に妖怪があふれかえってパニックに陥るという話を、作者自身をはじめとした実在の妖怪関係者たちによるコメディとして描いてみせるという、なんだこりゃって内容の本なんだけれど。
これが単にふざけているわけではなく、現在の日本社会に対する作者の憤りを反映しているのかな──と思わせるようなところもある。
過去の京極作品にも社会意識を感じさせるところはあった。ただ、そういう部分は時代が過去であったり、主人公が老人や子供だったりすることで、適度なオブラートに包まれていた。それがこの作品では、実在の人物たちを登場させて、現代を舞台に日本崩壊の危機を描くことで、いつになく前に出てきている気がする。
ま、徹底的にふざけた話ではあるんだけれど、そのふざけた話の隙間から、まじめな顔が見え隠れしているというか。そんな感じ。
三分冊のうち、『序』と称した一冊目は、登場人物を紹介しながら、事件の様相を少しずつあきらかにしてゆく。そのため、とてもゆっくりとした印象なのだけれど。
得体の知れない話だなぁと思いながら読んでいると、二冊目の『破』でいきなりペースアップ。日本じゅうが無法状態に置かれるような重大事態が持ち上がり、京極氏が隠れ家的な居酒屋でさつまあげをつつきながら殺されそうになったりして、がぜん緊迫感(サスペンス・スリラー色)が強くなる。ここまで読むと、つづきが気になって、もーやめられない、とまらない。
で、完結編の三冊目『急』ともなると、ほんともう大変。もはや妖怪小説と呼ぶのは間違いじゃないのか──SFアニメおたくの妄想?──というくらいの派手な花火が打ちあがる。
どんなキャラが出てくるかを書いちゃうと、読んだときのインパクトが薄れるので書かないけれど、いやぁ、出るわ、出るわ。日本が世界に誇る特撮やアニメやマンガ、ホラーのキャラクターがぞろぞろと出てきて、大騒ぎを繰り広げている。
あ、日本だけじゃなかった。そういや海外の邪神もいましたね。ほんともう大変。全編に「馬鹿」って言葉があふれてかえっているけれど、どうせなら惣流アスカ・ラングレーを呼んできて、「あんた、バカぁ?」と言わせたい。
そんなこの本で僕がもっとも感心したのは、第二巻の帯にある「巨大ロボ、出撃す」というくだり。
なんたって、いま現在の日本が舞台だし、少なくても『序』を読んだ時点では、ロボットが出てきて納得のゆくような話の展開にはなっていないので、なんだそりゃ、どういうこと?――と思っていたら、「あぁ、なるほど」と思わせてくれる、じつに見事に展開で、出てきました巨大ロボ。
すげー、京極夏彦。自らの得意フィールドで強引に磁場をねじまげて、珍妙な巨大ロボットを動かしてみせるその力技に脱帽です。
(Dec 04, 2016)