みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子訊く・村上春樹語る
川上未映子・村上春樹/新潮社
作家・川上未映子による作家・村上春樹に対するインタビュー集。
春樹氏のエッセイ集『職業としての小説家』のあとに行われた一本と、『騎士団長殺し』の刊行にあわせて行われた三本、計四本のロング・インタビューが収録されている。
後輩の女性が尊敬する先輩にあれこれと質問を浴びせてゆく。相手が年下の女性(しかも同業者)ってことで、いつになく春樹氏がリラックスしている感じが伝わってくる。訊く側は意欲たっぷりだし、話す側もそれを受けてとても楽しそうにしている。両者のあいだにある信頼関係が伝わってくるのが心地いい。他ではなかなか得がたい感触のある、とてもいいインタビュー集だと思う。
なかでいちばんおもしろかったのは、『騎士団長殺し』のサブタイトルである「イデア」と「メタファー」について、川上さんがプラトンを勉強してインタビューにのぞんでいるのに対して、春樹氏がそんなの知らないよ~、みたいな調子であっさりと流してしまうところ。そうなんだ、春樹氏も自分が作品のなかで使ったイデアがなにを意味するのかわかっていないんだ。で、それでいいんだ。
自らの無知に対する対する春樹氏のあっけらかんと態度に感心してしまった。
僕は十代のころに『羊をめぐる冒険』を読んで、ねずみがクライマックスで自らの弱さを肯定するシーンに人生最大級の衝撃を受けた人間なのだけれど、プラトンのイデア論を知らないと笑って済ます春樹氏の姿勢には、あのシーンと地続きのものを感じた。
村上春樹という人の書くものは一作ごとに変化してきているけれど、作家その人のコアとなる部分はあくまでも変わっていないんだろうなぁと思いました。
(May 14, 2017)