クリスマスのフロスト
R・D・ウィングフィールド/芹澤恵・訳/東京創元社/Kindle
表紙には惹かれなかったのだけれど、評判がいいのでいまさらながら読んでみたイギリス発の警察ミステリの第一弾。
いや、でもこれは懐かしい感触たっぷりだった。かつてレジナルド・ヒル、コリン・デクスター、ピーター・ラヴゼイなどのミステリを愛読していた身としては、はみ出し警部がまわりのひんしゅくにわれ関せずと難事件に挑むというパターンはとても昔なつかしく親しみやすいものがあった。
主人公のジャック・フロスト警部が上昇志向たっぷりの新人刑事とともに捜査にあたるという展開には、いやおうなくダルジール&パスコー・シリーズを思い出させるものがあるけれど、でも曲者の極み的だったダルジール警視と比べるとこちらのフロスト警部のほうがわかりやすく人気者だし、相棒をつとめるクライヴ・バーナードもパスコーほどの切れ者には見えない。あと、小説としてはこちらのほうが何倍も読みやすい。
まぁ、レジナルド・ヒルの小説はその文体的な手強さも魅力だったので、こちらはじゃっかん歯応えや深みに欠ける気はするけれど──とくに少女の失踪という悲しい事件をあつかっているにしては読後感が軽すぎるきらいがある──、でもまぁそんなことを思うのもほかと比較するからであって、一編のミステリとしては十分におもしろかった。
若い刑事がパートナーを務めているので、ついダルジールと比較してしまったけれど、主人公のフロストはとくに誰に似ているでもない。僕がこれまでに読んだ英国産ミステリの主人公では、もっと人間臭くて平凡で人好きのする人物かもしれない。仲間の警察官たちも人がよさそうだし、嫌みな警察署長のキャラもそれゆえに味があるし、並行して発生したいくつかの事件を収まるべきところへ収めてみせたストーリー・テリングのお手並みも見事。なるほど人気があるのも納得のシリーズ第一作だった。
(Dec 29, 2017)