神よ、あの子を守りたまえ
トニ・モリスン/大社淑子・訳/早川書房
八十代後半になってもいまだ健在なトニ・モリソンの最新作。内容的にも衰え知らずで素晴らしい。
この小説はモリスン女史の作品にしては珍しい現代劇(もしかして初?)。
主人公のブライドは色白な黒人の両親のもとに真っ黒な肌を持って生まれたがためにつらい幼少期をすごしたものの、成長してからは社会的な成功を収め、ハンサムな恋人とともに充実した生活を営んでいるキャリア・ウーマン。
そんな彼女の人生の歯車が、ひとりの受刑者の釈放により狂い始める。
彼女の幼少期に近所の子供たちへの性的虐待の罪を問われて受刑していたその女性にブライドは救いの手を差し伸べようとするのだけれど、なぜかそのことが原因となって恋人には振られ、受刑者から好意を仇で返され、こっぴどい目にあわされる。
怪我のために長期休暇を余儀なくされた彼女は、ひとりで過ごす療養中に自らの人生を見つめなおし、恋人のブッカーへの想いを新たにする。そして理由も告げずに自分を捨てて去っていった彼に会いにゆこうと決心する。
ところが彼の居場所を探して車を走らす旅の途中で事故をおこして、ふたたび身動きの取れない身となり、たまたま出会ったヒッピー夫婦の世話になるはめに……というのが半分くらいのあらすじ。
いつも通り黒人差別の問題をテーマにしながら多重的な構成で描かれているのものの、これまでにないストレートな恋愛小説として読めるのが新鮮。主人公の親友ブルックリン、性的虐待の罪を着せられた女教師や、エコ生活を営むヒッピー夫婦とその養女、人のいいブッカーの伯母など、脇役に配した個性的なキャラクターもとても印象的で、短いながらも読みごたえがあるいい小説だった。
老いてなおトニ・モリスンにハズレなし。
(Jun 30, 2018)