魔法の夜
スティーヴン・ミルハウザー/柴田元幸・訳/白水社
緻密な文章で現実とも幻ともつかぬ世界を描くのがスティーヴン・ミルハウザーという作家の特徴だとするならば、これはまさにそういう作品。
ある暑い夏の夜に、月の光に誘われるように家を出てきたさまざまな人々の姿を描く断片的な章をいくつも積み上げて、一夜の夢ともうつつともつかぬ世界を浮かび上がらせてみせる。
仮面をつけた少女たちのグループが他人の家に無断で忍び込むエピソードがあったりするので、もしかしたら以前この人が書いた短編『夜の姉妹団』(内容はまったく覚えていない)を長編──もとい、柴田氏のいうところだと中篇──に膨らませたような作品なのかもしれない。でも柴田氏はそんなことひとことも書いてないから、やっぱ違うのかな。
これまでに翻訳されたミルハウザーの長編三作はどれもストーリー自体はしっかりしていたけれど、そんなわけで今回はストーリーはそっちのけで、イメージがすべてって仕上がりになっている。小説というより詩に近い印象の作品。それゆえ、その雰囲気に浸れる人にはいいだろうけど、普通の小説のようにストーリーありきで読むとおそらくまったく楽しめないじゃないかと思う。
かくいう僕自身はどうだったかって? うーん……。
ところどころに惹かれるものはあったけれど、小説としておもしろかったかと問われると正直なところ困る。
(Aug 05. 2018)