ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー
山田詠美/幻冬舎/Kindle
これもKindleで安くなっていたから読むことにした山田詠美の短編集。この人の本を読むのはこれがじつに十六年ぶり、三冊目。
山田詠美という人は、この本のあとがきでも自ら男好きを自認していたりするし、豊富な男性遍歴を糧にセクシャルな小説ばかり書いている女性作家という失礼なイメージを抱いていたんだけれど、以前に『色彩の息子』を読んで、それが大間違いであることを知った。この人ってとても整った文章を書く至極まっとうな恋愛小説家だと思う。この本もとてもよかった。
まぁ、すべてが男女の恋愛の話だから、セックスは当然のこととして描かれているけれど、でもそれは男と女が愛しあう上での当然の行為だからであって、過剰にその部分ばかりに執着しているわけではないのがわかる──というか、逆にセックスそのものに関する姿勢はけっこうドライな気がする。するのは好きだけど、別にそれが人生の最上の喜びってわけでもないから詳しくは書かないわ、みたいな。そんな感じの、どことなく覚めた感覚がある。
でもって、この人はあまり女性の生理的な感覚を振りかざしたりもしない。そもそもこの短編集に収録された作品の過半数は男性目線だ。そして、そこに描かれる男性たちの姿には、それがどんな駄目男であっても、どこかにちゃんと魅力的なところがある。
まぁ、作者は日本人女性なのに、出てくる男性のほとんどが黒人だから、安易にビッチなイメージを抱いてしまいがちだけれど、読めばそんなのがくだらない偏見なのがわかる。男好きを自称する作者だからこその優しいまなざしでもって描かれるさまざまな男たちの愛の形には、肌の色などに関係なく、しっかりと胸に残るものがある。
山田詠美、僕はとても好きかもしれない。
(Sep 08. 2018)