闇の中の男
ポール・オースター/柴田元幸・訳/新潮社
このところのポール・オースターの作品には、かなりの頻度で作中作が登場して、メインのストーリーに平行して、もうひとつの物語が語られる。
この作品もそのひとつで、主人公の小説家が頭のなかで考えている物語──9.11を知らないもうひとつのアメリカを舞台にした不条理な内戦の話──が同時進行で語られてゆく。でもって、とてもテンションの高いその話が次第にメイン・ストーリーを侵食してゆく。
このふたつのラインの交錯が、なにが現実か、非現実かよくわからない曖昧模糊とした世界観を突きつけてきて、集中力を書いた状態でいい加減に読んでいたら、途中でなんだかよくわからなくなった。
前作の『写字室の旅』もよくわからない小説だったので、このところのオースターはまた初期のころのような抽象的な作風へと移行しつつあるのかと思ったら、そんなことはなく──。
途中でこのサイド・ストーリーが唐突にばっさりと切り落とされ、終盤は主人公の老作家とその孫娘のあいだで交わされる昔語りだけになる。でもって、まごうことなき読みやすさになる。なんなんだ、このいびつな構成は。小説の作法としておかしくない?
──と思って、過去のオースターの作品について、自分が書いた感想をチェックしてみれば、そこには毎回のように「いびつ」だ、「いびつ」だと書いている僕がいる。
あぁ、ポール・オースターってこれまでもずっとこういう小説ばかり書いてきた人なんだなぁって。それを読んで僕は毎回こりゃなんだと思っているみたいだ。
オースターの小説をそれなりに多く読んでいるのに、そのわりにはいまいち愛着を抱ききれないのは、この独特な作風ゆえなのかなと思った。
(Oct 08. 2018)