痴人の愛
谷崎潤一郎/青空文庫/Kindle
最近お気に入りの漫画家・麻生みことの『小路花唄』でオマージュを捧げられていたので、いまさらながら読んでみた谷崎潤一郎の代表作のひとつ。僕が谷崎文学を読むのは、これが『細雪』につづいて二作目。
『痴人の愛』というタイトルから、僕はこの作品をちょっと白痴気味の美少女の醸し出す天然のエロスにやられた中年男の話かと思っていたら、てんで見当違いだった。
ヒロインのナオミはどうにもこうにもしたたかだ。幼いころはともかく、いったん男を知ったあとはもう節操なし。どちらかというと、彼女のそのしたたかさ、節操のなさこそが読みどころかと思うくらい。
なので、ここでの「痴人」が指すのは彼女ではなく、おそらく語り手である男性のほうでしょう。自分を裏切る悪女と知りながら、その美貌に溺れて彼女に隷属してしまう男のダメさ加減をして、「痴人」と称したのだろうと思う。
とにかく主人公のぐだぐださがなんともいえない心情をかきたてる作品。「美に溺れる」と書いて「耽美」とはよくぞいったと思う。
まぁ、美しいものに惹かれる心情は尊いと思うけれど、この主人公のように外面的な美しさと肉体的な快楽ばかりに囚われて、内面的な醜さは見て見ぬふりって、そんなのが耽美主義とは思わなかった。
英米文学と比べると、同じく美に溺れて身を持ち崩す話でも『ドリアン・グレイの肖像』のような凄みはないし、『ロリータ』のような気が狂わんばかりの非凡さもない。身もふたもない言い方をしてしまえば、この小説はひとりの平凡な男が愛欲に溺れて腑抜けてゆくだけの話なわけです。
同じように美に溺れたり、年の離れた女の子に夢中になる話でも、海の向こうとこっちでは、ずいぶんと勝手が違うもんだなぁと思いました。
(Nov. 23, 2018)