ラヴクラフト全集7
P・H・ラヴクラフト/大瀧啓裕・訳/創元推理文庫/Kindle
だらだらと読みつづけてきたラヴクラフト全集もようやくこれにて完結。気がつけば第一巻を読んだのはもう四年も前の話だった。読書力の衰えがいちじるしくていけない──なんて話はまぁどうでもよく。
ひとつ前の第六巻もそうだったけれど、今回も初期の作品を中心とした落穂拾い的な性格の本になっているため、ラヴクラフトの代名詞であるクトゥルー神話に分類できる作品はほぼゼロ。でもまったくのゼロだった前巻と比べると、今回はそれよりなお補遺的な性格が強いがゆえに、断片的な作品のなかにネクロノミコンの名前が出てきたりして、ほのかにクトゥルーの香りが漂っていた。
まぁ、ほとんどクトゥルーが出てこないのこそさびしけれども、そこはラヴクラフト。初期の習作的な作品であっても、文体はすでに完成しきっている。逆に俗悪なモンスターが出てこないぶん、幻想文学としてはかえって後続の作品よりも文学性が高いんじゃないかって気がした(それゆえおもしろみが薄いわけだけれど)。その描写力に秀でた筆圧の高い文章には、たまたま同時進行で読んでいた──というか、いまだに読んでいる──スティーヴン・ミルハウザーのそれに近いものを感じた。
この本を読んでいちばん感銘を受けたのは『夢書簡』と題した章に収録されている、知人にあてて自らが見た夢の内容を書いて聞かせた文章の数々。なかでも古代エジプトの一大叙事詩的な夢の内容をつまびらかに語っている書簡には愕然とした。
なにをどうしたらあんな歴史書の内容みたいな夢を見られるんだか。もしも夢に見たというのが嘘で、実際には創作だったとしても、知人への手紙にわざわざそんなものを書いているって時点で、それはそれですごい話だし。僕なんかとは生きている世界が違いすぎる。
いまさらながらラヴクラフトの天才っぷりに脱帽の最終巻だった。
(Dec. 25, 2018)